Camille Laboratory Top機動戦士Ζガンダム>創作小説

Map without a way back



Camille & Fa in UC0087
from #21 "The pulsation of ZETA"




「……切ったんだ。髪、」

 肩に回した手が、その変化に気づく。それは些細なこと、でも確かな変化。

「鬱陶しかったのよ。訓練の邪魔になるし。」
「……」

 言葉は行き場を失う。迷子になったあの日のように。だから、余所の街へ歩を進めようとして。

「でもさ、似合うよ。その位の長さの方が良いな。」
「そう? ありがと。……でも、前は長い方が良いって言ってなかったかしら?」
「……そうだっけ?」

 そして見知った街へ迷い込む。いつもそうだ。

「何時切ったのさ、」
「月へ降りてすぐよ。だから、切った時にはもう少し短かったかしらね」
 言って、後ろ髪を軽く払ってみせる。添えた微笑みは、それでも蒼い色を帯びる。

「長い方が良いって──言ってたのはファの方じゃなかったか?」
 そんな事を思い出す。アップに出来るように、伸ばすのだと。あれは何時……?

 沈黙がふたりの間を流れてゆく。こんなに近くにいるのに、触れ合っているのに。果てない距離が、いつの間にか横たわっていたのか? それは些細なこと、でも確かな変化。さりげなく、しかし疑う余地もなく、変化はその顔を見せ、悲しそうな顔をして笑う。

「月はどうだった?」
「毎日大変だったわよ。低重力って言ってみたって、そんなに甘いものじゃないものね。カミーユは、地球どうだったの?」

 街角で怖くなって引き返す訳にもゆかず……

「こっちも似たようなものさ。ずっと逃げ回ってばかりでさ、気が休まる間もありゃしない……って、今に始まったことじゃないけどな、」

 ……だったら、盲滅法でもよいから進むしかない……

「今の内に休んでおけよ。疲れてるんだろ? じゃ、」

 進んでいるのか逃げているのか? ともかく、足はその場を離れたがっている。

 次第に横たわる二人の間の距離。呼び止めることもできず、消えゆく背中を見つめているだけ。表面上は変わった様子はあまりない。ただ何か、彼をとりまく空気が違う。それは些細なこと、でも確かな変化。

 いつも通る街角、でもめぐる季節の中、花はうつろい、風は色を変えてゆく。何も変わるもののなさそうなこの宇宙で、確かに、何かが変わっている。

 とまどいは闇の向こう、恐れは霧の向こう。それでも歩を止める訳にはいかないから、振り切って歩き出す。いつか戻りたいあの場所へ帰り道のない地図を携えて。


(9409.29)



あとがき

 #21「ゼータの鼓動」のおはなし。安彦さんの設定画だと、制服のファの髪は短いのですね。それが好きなのに、本編ではあまり変わり映えがなくてちょっと悔しかった……実はそれだけ(^^; 散文詩にかなり近い書き方なんですが、この頃は丁度Gガンに燃えまくってて、1年に2ページだけでも書くという感じでした。

 題名の元ネタは遊佐未森「地図をください」英語タイトル。確かに歌詞にもそういう言葉はあるんだけど、「帰り道のない地図」ってのが何か凄く好きでして。はい。


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