Camille Laboratory Top機動新世紀ガンダムX>創作小説

天使の梯子



Ladder of angel
第十五話「天国なんてあるのかな」より




 フリーデンは、久しぶりの雨を受けていた。それは、彼らの現在位置が砂漠化の進んだ北米大陸内陸部から、比較的潤いのある沿岸部に近くなってきた証左でもあった。休暇を申請して別行動をしているウィッツとロアビィとの合流予定地点までは、時間も距離もあるので、夜の雨の中を移動するのは避けて、明け方まで森の近くに停泊することになった。
「たまには、雨も良いですね。」
 ブリッジから前方を見やったままのジャミルに、サラは声を掛けてみた。
「ん……? あぁ、そうだな。」
 言って、前方に視線を戻す。濃いサングラスに隠された彼の瞳に何が映っているのか、サラには分からなかった。それでも感じられるものはあって、彼女は手元のモニターに視線を落とした。

 やはり、ジャミルはどこか心ここにあらずといった状況だったようだ。フォートセバーンを後にして以来、フリーデンはずっと西を目指していた。それは以前と変わらないバルチャーとしての日々ではあったのだが、今のフリーデンには旅の目的が加わっていた。『ニュータイプを発見し、保護する。』──ジャミルの贖罪と自分探しのその旅の水先案内をつとめているのが、やはりニュータイプと思われる少女・ティファであった。しかし、ティファの様子に変わったところもないまま、もう海の近くにまで来ていた。

 何も海は初めてではない。西海岸にだって行ったことはある。獲物を求めて北米大陸を行き来しているバルチャーとしては、ごく当然の行動だ。しかし、目立った進展も見られないまま西海岸に至ってしまうということは、もう北米大陸には、ニュータイプは居ないのかも知れないということになりかねない。その思いが、彼の心を雨音に耳傾けさせてしまうのだとサラは思う。尤も、このブリッジからでは、外の雨音など聞こえないものなのだが。そんな折、手元のモニターが軽い電子音を立てた。バルチャー艦の接近を示す警告音だ。

「キャプテン、」
「うむ。」

 二人きりのブリッジに緊張が走ったその目の前で、バルチャーサインが上がった。


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