「あれは……」
そのサインを見て取って、ジャミルがサラにうなづいた。
「回線、開きます」
『お久しぶりです、ジャミルさん。』
グリーツ・ジョーが、親しげな笑みを浮かべていた。
「この間は本当に世話になったな。」
「いえ、ジャミルさんこそお元気そうで何よりですよ。最近はまたやたらと物騒になってきましたからね」
「そうかな、」
グリーツはサラが出したコーヒーをすすると、声をひそめた。
「聞きましたか? フォートセバーンの話。」
「フォートセバーン?」
そう応えるジャミルの声音は、いつもと変わらないように感じられた。
「何でも、革命軍が残していた巨大モビルアーマーが再起動して、街が滅茶苦茶になったっていうじゃないですか。」
「あぁ……そのことか。」
サラとつい視線を合わせるジャミルを見て、グリーツは訝しげに首を傾げた。
「まさかとは思ってましたが……やっぱり貴方でしたか。」
「何が?」
「ガンダムが居たって話もありましてね。フリーデンが関わってるんじゃないかって思ってはいたんですがね。」
「まぁ、そんな所だ。」
相変わらず、サングラス越しのジャミルの表情は分からない。それでも、彼が何がしかその街に心寄せていることは見て取れる。
「今は自衛部隊が中心となって、街の復興に掛かっているらしいんです。それで、物資が集まり始めていて……要するに稼げるってことなんですがね。」
グリーツは口の端を上げてニヤリと笑った。
「ま、ちょっと今別の仕事抱えてて、すぐにはあの街で商売が出来ないってのが残念なんですが、いつかは行こうと思ってるんですよ。」
「そうか。」
「ジャミルさんはこれからどちらへ?」
その質問はサラの胸中にもある。サラは膝の上で握った手に心なしか力を入れた。
「海へ、出ようかとも思っている。」
「海ですか?」
グリーツにうなづいて、ジャミルは言葉を継いだ。
「まずは沿岸部を回ってからだが……北米大陸を出るのもいいのでは、とな。」
「海ですか……」
思わず口にしたサラは、『すいません』と小声で詫びた。『構わん』とジャミルは応えて、グリーツに向き直った。
「そういう訳だから、フリーデンはしばらくフォートセバーンへは行けそうにない。だが、君が行くというのであれば、頼みがある。」
「何です?」
「様子を、見てきて欲しい。」
「分かりましたよ。情報収集は始めてますからね、そちらへ渡せるよう整理しておきますよ。」
ジャミルはサングラスを直すと、グリーツに言った。
「それも聴きたいが……具体的に、会ってきて欲しい人が居るんだ。」
「ほぅ……誰です?」
「自衛部隊長の、カリス・ノーティラスだ。」
グリーツは、細い目を丸くした。
「ガロード、起きている?」
サラがガロードの私室をノックすると、眠そうな声が応えた。
「何かあったの?」
「あったのよ。急で悪いんだけど、手紙を書いて欲しいのよ。」
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