「おつかれ、ガンダム坊や」 ふぅ、とコックピットで息をつくガロードに、キッドが声を掛けた。 「あぁ、ビックリしたぜ今日は。……すまないな、またバランサー調整になっちまって」 「何、それが俺の仕事なんだ。お前はお前の仕事をすればいーんだよっ。ほらっ」 追い出すようなキッドの物言いは、彼なりの配慮なのだろう。ガロードはもう一度『すまない』と言って、シャワーを浴びようとモビルスーツデッキから上がった。 シャワー室には先客が居た。勿論、先の戦闘を共にしたウイッツとロアビィである。あいつら一体何だったんだろうな？という話から始まって、話題は戦闘前のものにまで遡った。 「でさ、ほんとに思い当たるフシないのかよ？キスマークの主」 ウイッツがニヤニヤ笑いながら言うのだが、ガロードは肩で息をつくだけだった。 「もぉいいよ、俺疲れた。」 「案外ドライだね、少年？」 「地球が乾燥してんのが悪いのさっ」 ガロードは、お湯の出のよろしくないシャワーを恨めしげに見上げながら応えるしかなかった。 医務室でシンゴから昨晩の顛末を聞いたテクスは、くすり、と笑った。 「キスマークさながらに赤く染まってしまうとはな。」 「純情なんですよ。良いじゃないですか」 シンゴもあくまで微笑ましく思い出し笑いをしている。テクスは戸棚から薬を取り出すと、シンゴに手渡した。 「じゃ、これ飲んで寝直すんだな。ご苦労さん」 「ありがとうございます、ドクター。キャプテンも……失礼します」 「あぁ、ゆっくり休んでくれ」 シンゴが辞して、テクスはフリーデンで最も手の掛かる患者のケアに取り掛かることにした。 「キスマーク一つで赤くなるなんて、やはりまだまだ子供だな、ガロードは。そう思わないか？」 ジャミルは、特に応えようとしない。テクスはジャミルに向き直った。 「……どうした？耳元が赤いぞ？」 「ティファ、いいかい？」 「どうぞ」 シャワーを浴びたガロードは、ティファの部屋を訪れていた。戦闘の後で多少散らかった部屋の片付けが終る頃という風で、ティファはテーブルの上のものをまとめていた。 「あのさ、朝のことなんだけど……ごめんな。」 「いいの。良かった、ガロード、無事で……」 ティファの瞳はどうしていつも濡れたイメージがあるのだろう。その見えない涙を拭ってやりたい、ガロードはそう思う。 「ありがとう。ティファが居たからさ。俺、ティファが居るなら、大丈夫だから」 ティファはこくん、とうなづいた。 そんなティファの奥、それでもやはりガロードにはリップスティックが気に掛かる。視線を追ったティファは、悪戯っぽい笑みを浮かべて、それを手に取った。 「色を、変えて貰ったの。」 「そうなんだ。……あ、だから部屋に居なかったんだ」 ガロードは、はははっと笑った。そして、うんっ！と伸びをすると、ティファに言った。 「も少し居たいんだけど、キッドにずっとＧＸ任せてるんだ。様子見たら、また来るからさ」 「うん、」 名残惜しそうにバイバイと去り際に手を振って、ガロードはモビルスーツデッキに走った。ティファを守るために、この艦を守るために、自分に出来ることをするために。でもつい考えてしまうのだ。 『一体フリーデンには何本リップスティックがあるんだろう？そのうち、俺の頬についたのはどれなんだろう？あるいは、外の誰かが……？』 考えるの止めたはずなのになぁ。自分に自分で溜め息をついて、ガロードは前を向き直した。
(9812.11)
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あとがき この「ガロードに愛のくちづけを」は、「伝説の勇者ダ・ガーン ＣＤサスペンス劇場 ミステリアス・ベル 隊長に愛のくちづけを」（ビクター音楽産業）をＧＸに置き換えたらどうなるか？というDoubleパロディです。ＧＸも「ミステリアス・ベル」も脚本は川崎ヒロユキさん(^^) 愛故の所業ですので、お許しくださいませ。お話としては第九話「巷に雨の降るごとく」の直後になります。 ただ「ミステリアス・ベル」では、キスの犯人を捜す中で、キャラクターの（本編には登場しない）過去や日常が出てくると言う趣向になっているんですが、さすがにそこまでは踏まえられませんでした。ただジャミーの脱力するコメントはＣＤからそのまま貰ってきてしまいました。その他気になる方は是非ＣＤを聴いてみてください。ＣＤでの犯人はさっぱり分かりませんが、今回のはわたしにも分かりません〜。 筋がいただきものだったこともあり、一晩で書き上げたものでしたが、初めてだったんですよね戦闘シーン書いたのって(^^; 兄弟やる気なかったらしくてあっさりしたものですが〜。しかしなー、少々脚を水につけたからって、陸上でサテライトキャノンをぶっ放せるＧＸのバランサーがイカレても困ると思うんですが……ま、いっか。 ジャミーがヒロイン状態なのも……ま、いっか(^^;
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