Camille Laboratory Top機動新世紀ガンダムX>創作小説>ガロードに愛のくちづけを

「兄さん、つかまえたよ」
 フリーデンに急速接近する機体――ガンダムアシュタロンのコックピットで、オルバは離れた場所で輸送機の操縦桿を握る兄・シャギアに報告した。
(見えている……時間が限られているのだ、巧くやるのだな)
 兄の言葉にたしなめるような面持ちを感じて、オルバはかぶりを振って応えた。
「分かっているよ、兄さん」
 オルバは、アシュタロンを急旋回させると、ブリッジを狙うコースをとった。
「させるかぁぁぁっ!」
 デッキから一番最後に飛び出したガロードのGXが、かなり無理な姿勢からアシュタロンを狙った。アシュタロンはその攻撃を避けはしたが、かなり不意をつかれたようではあった。姿勢を崩したアシュタロンを、ロアビィのガンダムレオパルドとウィッツのガンダムエアマスターとが追い込むようにフリーデンから引き離す行動に出る。
「珍しいじゃないか、単独行動なんてよ!」
「もう騙されやしないって、いつかのお礼だっ!」
 二機のガンダムに追い込まれて、アシュタロンは一見なすすべもなく後退するように見えた。ガロードはGXを下部甲板に降ろして、ブリッジを守れる位置につけた。
「奴は……もう一機はどこだ?ブリッジ、補足できないのっ?」
<モビルスーツは確認できないわ、警戒は続けて!>
「分かってますって!」
 そうガロードが応えた時だった。思わぬ方向から火線が走った。フリーデンの舷側をかすめる程度で済みはしたが、次はやられる、と誰もが思った。
<7時の方向から……輸送機接近!後部弾幕張れっ!>
「輸送機だぁ?」
 シンゴの声に、ガロードは後部モニターを開いた。確かに、輸送機が突っ込んで来る。

「オルバ、良い子だな。さて……不測の事態にどれだけ対応できるものかな?ガンダム。」
 シャギアはアシュタロンの方にちらりと目線をくれて薄い笑みを浮かべると、輸送機でフリーデンとGXの脇をすり抜けてみせた。勿論、機銃のお見舞いも呉れてやっている。補修したばかりの舷側から、煙が幾筋も立ち上った。
「なんだって輸送機なんてものが!」
 ガロードの声は上ずって掠れていた。AWの時代、航空機というのはひどく珍しいものになっている。輸送機という概念はあっても、見た事がある人間を探す方が苦労するだろう。そんなものが機体から受けるイメージを越えた動きを見せて、攻撃まで仕掛けて来たのである。これは十分に不測の事態だった。
<落ち着けガロード!お前ならやれる!>
 ジャミルの声が飛び込んで来た。この人騒がせなキャプテンはまだ傷が癒えていないのに、またしてもベッドを抜け出してきたらしい。
<いくら飛んでみせても、機動性ではモビルスーツにかなう訳がない。普段通りやれば良いっ!>
「分かった、落ち着くからジャミルも落ち着いててくれよっ!」
 言い放って、ガロードは気分だけ大きく息をついた。
(ガロード……)
 いつの間にかブリッジに上がって来たらしいティファに気付き、ガロードはコックピットの中で彼女にうなづいてみせた。そして、モニターを睨みつけた。
<来るぞっ!>
「見えてるっ!」
 ジャミルに応えつつ、輸送機に対して正面の姿勢を取ろうとした時だった。GXの機体が、いきなりバランスを崩しかけた。
「うゎっ!」
 脳裏に、キッドの怒声が蘇る――『GXはまだ脚部の調整が完全じゃない、急に体を捻ったりすると、着地していた時にバランスが崩れる可能性がある。けど飛んでいれば問題ないっ!』
 ガロードは、バランスが崩れるままにGXの機体をフリーデンから引き離した。地上スレスレの所でスラスターを吹かしてバランスを取り戻す、その体勢の変化のままに、輸送機に狙いをつけた。
「行けぇぇぇっ!」
 閃光が空を貫いた。下部甲板にGXが居ることを想定した位置に対しての攻撃コースを取っていた輸送機は、かなり無理な体勢で回避に入り、ようやくのことでかすめる程度に機体を持っていくことが出来た。そしてそのまま、フリーデンの方には戻らなかった。
「今日は時間がないのだよ。何、またすぐに機会は巡り来る……行くぞ、オルバよ」
(了解、兄さん。データ取得には充分すぎる成果だよ。)
 エアマスターとレオパルドを巧くあしらったらしいアシュタロンも、輸送機と合流するコースを取った。三機のガンダムは、フリーデン外部からの消火活動を手伝って、デッキに戻った。



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