Camille Laboratory Top機動新世紀ガンダムX>創作小説>ガロードに愛のくちづけを

「分かりゃいーんだよ。分かりゃーな。」
「そぅそぅ。にしても、一体誰なんだろうねぇ?お子様にキスを残して去っていった物好きってばさ?」
 四人はその場でうーむ、と考え込んだ。ちらちらと目をやるが、誰も何も思い付かないらしい。そのうちに、キッドが帽子を弄びつつ、口を開いた。
「これじゃあ気になって仕事になりゃしない。こういう時は――」
「何だよ?」
「アレしかないのさ」
 フリーデンクルーとしてはこの四人の中で一番の古株のキッドは、にやりと笑った。


「そうか、ガロードは何者かに純潔を奪われてしまったのか……」
 ジャミルがベッドで体を起こしたままの体勢で考え込んだ。キッドの提案で医務室に押し掛けたガロード達は、『何かが違う……』とそれぞれ頭を抱え込んだ。
「そんなもんじゃあないと思うんだけどさぁ、気になるんだ。」
「ガキンチョの巻き添え食っちまって、俺達まで仕事になりゃしないんだ。ドクター、何とかならない?」
 そんなことを言うキッドに『まぁまぁ、』と声をかけて、ドクター・テクスはガロードに向き直った。
「ガロード、何色のルージュだったか覚えていないのか?」
 ガロードはそんなこと考えもしなかったようで目をぱちくりさせた。

「慌てて落としちゃったから、全然。」
「バァッカだなぁ。」
「じゃあ手前自分がこういう状況に陥ってみろよ、慌てない自信あんのかよ?」
 またしても、キッドとガロードが衝突した。
「二人とも、ちょっと静かにするんだな。ここがどこだか、分かっているのだろう?」
 テクスが二人をたしなめて、顎に指を当てて思案顔を作った。
「シンゴが覚えていれば良いんだが、あいつさっき寝たばかりだからな。起こすのも可哀想だ」
「何で色なんて気にするのさ?」
「この艦で口紅を持ってる人数は限られてる。その中に、お前が見た色があれば艦内の人間の仕業、なければ艦外の人間ということになるだろ?甲板だものなぁ、外部の人間の可能性だってあるんだぜ?」
 ウィッツが解説をするが、ロアビィが茶々を入れた。
「外と内に同じ色の口紅くらいあるだろう?」
「でも、今のご時勢そんなに色数なんてないんだし。調べりゃ分かりそうだよな」
「塗装だってさ、少し調べりゃどこの仕事か分かるもんな」
 キッドがそう言って、ガロードの顔を覗きこむ。ガロードはバツが悪そうに、黙り込んだ。テクスは、方向を変えた。
「なら、誰かに好きだとか何か、告白されなかったか?」
 ガロードは思い返してみようとしたが、結局頭をかきつつこう応えるしかなかった。

「好きというより、殺してやるというのならすぐ思い当たるんだけど」
 あまりぞっとしない話だが、ほんの少し前の戦闘がまさにそういう状況だったのだ。
「あー、あのゲテモノガンダム。」
「青いワイズワラビーも、しつこかったよねぇ。知り合い?」
「そーなんだよぉ。あのみょーな兄弟とムチムチ・エニル・エルぅ〜。」
 頭を抱えるガロードを、やれやれという風に皆が眺めたときに、警報が鳴り響いた。
「敵機接近!総員、戦闘配置!」
 サラの声に、ジャミルとテクス以外は医務室を飛び出した。


「ブリッジ!相手の数は!?」
 コックピットに飛び込んで、回線を開くや否やガロードは怒鳴りつけた。足元ではキッドがメカニッククルーに激を飛ばしつつ、パイロットあての注意事項をそれぞれ並べ立てている。それに聞き耳をたてながら、トニヤの応答を待った。
<一機だけよ!ガンダム・タイプ!>
<げっ、ひょっとしてゲテモノガンダムかよ!>
 無線で、ウィッツの辟易した声が届く。やだねぇ、とロアビィの溜め息も聞こえるが、発進の合図に気持ちを切り替えて、三機のガンダムは戦場へ飛び出して行った。


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