Camille Laboratory Top機動新世紀ガンダムX>創作小説

月露



Moon dew
第二十五話「君達は希望の星だ」より




「あぢぃ……」
 力の抜け切ったガロードの声が寂しく響く。深夜のモビルスーツデッキには人影も見当たらず、ガロードはシャツの裾をパタパタとあおいで胸元に風を送った。それでも湿度がこう高くては、風があっても涼しくはない。
「なーに情けない声出してんだよ、ガンダム坊や」
「ぅわっ。なーんだ、居たのかよキッド」
 頭上から降ってきたその声に、ガロードは慌てた。ガンダムダブルエックスのコックピットから、工具を片手にガロードを見下ろして、キッドは答えた。
「誰かさんと違って暇じゃないんでね」
「俺だって暇じゃねーよ。もうじき哨戒任務の交代なんだよ」
 ガロードの返事に、キッドは手元の資料に目を落とす。任務中のエアマスターの姿はデッキにはなく、その帰還までにはまだ間があった。南アジアに上陸してこの方、現地での独立小国群の「戦争」の只中を行くフリーデンには、無法地帯の北米を行くのとは異なった緊張感が漂っていた。ガンダム乗りには夜間でも哨戒任務が課される日が続いていたのだ。
「まだ時間あるじゃねーか。休んでろよ」
「俺の部屋、エアコンまた壊れたんだ。暑くて寝られねーんだよ。なぁキッド、エアコン直してくれよ」
 そう言いながらクレーンを操作して、ガロードはキッドの元へ赴いた。キッドはそんなガロードには目もくれず、工具を持ち直した。
「時間が出来たらな」
「時間がって、今は何やってんだよ」
DXダブルエックスの発進前のチェックに決まってんだろ?」
「それはご苦労様。じゃあ、これは何だよ」
 ガロードがキッドの足元を覗き込むと、キッドはニヤッと笑ってその図面を見せた。
「DX専用バスターライフルだよ」
「おぉっ。すげーじゃん……って、こんなのあったっけ?」
「あったっけじゃねーだろ、相変わらずマニュアルも読んでないのか」
 キッドの指摘に、ガロードは明後日の方を向いた。キッドは、はぁっと大きなため息をついた。
「ま、この所DXに慣れるのと哨戒任務とで手一杯なのは分かるけどさ」
「そういうこと。で、いつ使えるんだ、このライフル」
「あとちょっとで完成だよ。でも次の哨戒任務には、今までどおりビームマシンガンを持っていってくれ」
「分かった」
 ゾンダー・エプタを脱する際に沈められた三機のガンダムは、サルベージ後の調整が急ピッチで行われたが、GXディバイダーに関しては必要最小限の整備しか行われていなかった。ガロードはDXの慣熟飛行中でGXのパイロットが居なかったし、エアマスターとレオパルドの整備が優先されたからである。そこで、ライフルを持たないDXは、GXディバイダーの携行武器であるビームマシンガンを持って出撃していたのである。
「チーフ、FCS周り、チェック終わりました」
「了解。後は俺がやるから、休んでろよ」
 ロココが声を掛けるのに、キッドはそう答えて指をポキポキと鳴らした。
「さぁって仕上げだ仕上げ。って、お前は何時まで居る気だ?」
 脇に居たままのガロードを振り返るキッドに、ガロードはふわぁと欠伸をしながら答えた。
「交代まで寝とくよ、寝られたらだけどな」
「本気で眠れないのなら、ドクターのとこへ行っとけよ」
「ありがとう。お前もちゃんと休めよ」
 ガロードはそう言って、モビルスーツデッキを後にした。


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