Camille Laboratory Top機動新世紀ガンダムX>創作小説>月露


「でも、寝られないんだよなぁ……」
 欠伸は出るのに眠れない。窓の外には遅い月が輝いていて、風に当たりにでも行こうかと、ガロードはまた自室を抜け出した。
 途中、何となく気になってティファの部屋の前を通る。足音を忍ばせてドアの向こうを伺うが、ただ静かな気配があるだけだった。おやすみ、と呟いて甲板に向かったガロードだったが、そこへ出た途端、突然大粒の雨が降り出した。
「何だよこれ! さっきまで月出てたじゃんかよ!」
 一瞬で服をびしょぬれにして、慌ててガロードは艦内に戻った。窓の外は、ざぁっと降りしきる雨で一杯だった。

 南アジアに上陸して、ガロードたちが出会ったのは「戦争」だった。北米で人々が生きるのに必死になっているのと、この国家間の争いとは、何かが違っているようだった。確かに北米は無法地帯だった。しかしそこには、この南アジアの戦地にはないものがあった。
 そしてこの南アジアには、北米にはないものがあった。中でも辟易するのがこの暑さと雨だ。前触れもなく降り注ぎ、あっという間に上がってしまうこの地方の雨。ガロードが見ているそばで雨脚はまばらになり、ふと見上げれば月が顔を出していた。

「やっぱり上がっちゃったなぁ」
 そうは言っても、甲板は見事に水浸しだった。とてもここで涼む気にはなれず、ガロードはため息をついて自室へ戻ることにした。
「よっ、ガロード。水も滴るいい男じゃないか」
 真夜中に声を掛けられて驚こうにも、振り向くまでもなく声の主は明らかだった。
「やっぱりシンゴかぁ。……あんたってさ、何時寝てるの?」
「休む時にはちゃんと気合入れて休んでるよ。どうしたんだ?」
 気合を入れたら休んでいることにはならないような気もするが、シンゴが言うからにはそういうこともあるのだろう。
「どうもこうもないよ、甲板で涼もうとしたらさ、この雨だもの」
「参るよなぁ。北米とはまるで勝手が違うことばかりだ」
 シンゴが言うのは、雨のことだけではない。そうだよな、とガロードは頷いて、頭をぽりぽりと掻きながら言った。
「こうなったら、おとなしく自分の部屋で寝るよ」
「そうしろよ、おやすみ」
「なぁシンゴ……眠れないときに眠るコツって、ある?」
 そうガロードに聞かれて、シンゴは思案顔を作った。
「羊を数えるとか、よく聞くけど」
 どうもその口ぶりは、あまり当てにならなさそうだ。
「羊ね。分かったよ、ありがとう。おやすみ」

 ガロードだって、眠れない夜というものは殆ど経験したことはなかった。なのに、最近はどうも眠れない日が続いていた。
 ゾンダー・エプタを出てからだ。ガロードはそう思い当たった。
 ずっとあの言葉が耳に残っている。カトックの残したあの言葉が。
『過ちを、繰り返すな』
 部屋で一人になり、眠りにつこうとすると、どうしても耳元に甦るのだ。
「夜くらい眠らせてくれよ、おっさん」
 そうは言っても、もうカトックが答えてくれることはなかった。

 窓の外には遅い月が、ガラスに残る雨の跡を通して見えていた。
 どこか、月が泣いているかのようにも見えた。
 DXに絶大な力を与えるあの月が。
 北米の乾いた大地の上に出る月と、この涙に濡れた月は本当に同じ月なのだろうか。そんなことを考えた。同じはずだと、誰かが答えた。それがティファの声だったようにも思えて、はっとして月を見上げても、もうその声は聞こえなかった。
 明日、ティファに会ったら聞いてみようか。いつものように、朝食に誘って……

 ティファのことを考えながら、うつらうつらと眠りについたガロードが、哨戒任務から戻ったウィッツに叩き起こされたのは、それから程なくのことであった。

(0408.13)



あとがき

 GXの創作は基本的にずーっとTV版のお話の進行に合わせて書いているんですが、エスタルドは相変わらず遠いです。ガロ助は「ガロードに愛のくちづけを」とか、直前の「躊躇いの銃爪」に続き、またも眠れぬ夜でごめんなさい。ティファとのらぶらぶはエスタルドに到達するまで待っててね(^^;

 ありがたくも頂いたご感想で、シンゴの台詞が可笑しくていい、というのが嬉しかったです。なんかシンゴって好きなんですよ。ていうか、GXってほんと好きなキャラばかりなんですが(^^)

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