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機動新世紀ガンダムX
>創作小説
躊躇いの銃爪
The trigger in waver
第二十四話「ダブルエックス起動!」より
サンルーカス海岸でガロード達が目撃した、月から伸びる一筋の光。それを追う海の旅は、思いがけない出会いと別れとをもたらした。ローレライの海でのルチル・リリアント、そしてゾンダー・エプタでのカトック・アルザミールとガンダム
DX
(
ダブルエックス
)
。そのいずれもが、十五年前のあの戦争と今とを繋ぐものであり、そしてそれを断ち切るための道標ともいえるものであった。二度に渡り海へ還る亡骸を見送ったフリーデンクルー達は、壊滅したゾンダー・エプタを後にして、進路を西へ取った。
『過ちは、繰り返すな』
そのカトックの言葉が、耳について離れない。
戦後十五年、ずっと死に場所を探していたというその男の、最期の言葉が。
あの時も、その言葉が聞こえていた。
自分の指をサテライトキャノンの
銃爪
(
ひきがね
)
に掛けてもなお、
躊躇
(
ためら
)
ってしまっていた。
あの時、俺のしたことは、正しかったのだろうか。
ガロードは眠れないまま、部屋を出ると暗い廊下を歩き始めた。
ガロードの足が自然と向いた先は、モビルスーツデッキだった。さすがに夜更けともなれば人影も見えないはずなのに、DXの足元には先客が居るようだった。
「ジャミル?」
その長身の人影に問い掛けると、サングラスを掛けた顔が振り向いて答えた。
「ガロードか。休んでいろと言ったろう」
「何だか眠れなくてね。あんたもだろ」
ガロードの問いにジャミルは答えなかった。ただ黙って、顔をDXに向け直した。
ガンダムDX。政府再建委員会が極秘裏に開発した新たなるガンダム。人工島ゾンダー・エプタにおいて、十五年前に連邦軍のエースパイロットであったニュータイプ、ジャミル・ニートが乗っていたガンダムXを回収して造られた機体である。そのことを告げたカトックは、その機体を「十五年目の亡霊」と呼んだ。
フリーデンがゾンダー・エプタを目指していると知った政府再建委員会の諜報総括官アイムザット・カートラルが、フリーデンのキャプテンとなっていたジャミルと、ニュータイプと目される少女ティファの身柄の確保を申し出た際に、委員会主導の作戦として送り込まれたのがカトックであった。旧連邦時代からの叩き上げの軍人であるカトックだったが、彼の目的はティファの能力によって見抜かれており、作戦は失敗した。しかし主導権を得たアイムザットによる次なる作戦と、監禁を脱したカトックの行動によってフリーデンは降伏することになり、ゾンダー・エプタにおいてクルーの身柄は拘束された。
たまたまフリーデンに収容されていたエニルの密告により、フリーデンクルーの逃亡作戦を知ったアイムザットは、利用価値のあるジャミルとティファ、そしてDXを含む4機のガンダムを擁してゾンダー・エプタを後にした。クルーが行動を起こした時には、既にゾンダー・エプタは捨てられていたも同然だった。ガロードはティファを求めて一人走り、カトックはそんなガロードを助けて小型船に乗り込み、アイムザットの船を追った。決死の追跡行と、船内の白兵戦。未来を変えるための戦いは数多の思いを巻き込み、新たなる力の目の前で、カトックは未来を守るための盾となった。
そして彼は言ったのだ。過ちは、繰り返すなと。
カトックが命を賭して託してくれた力がここにある。DXという力が。
そして、彼の言葉は、この胸の内にある。
二人並んでDXを見上げている、その胸中にはそれぞれの思いがあった。
ティファやジャミルはニュータイプなのだという、人の心が読める者なのだと。ならば、こんな沈黙の内にも相手の考えていることが分かるのだろうか。
それって便利かも知れないけど、でも別に、分からなくったって、想像することは出来るんだし。
ガロードはそう思いながら、それでも、隣に居るかつての少年が何を考えているのかを知りたくなった。
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