Camille Laboratory Top機動新世紀ガンダムX>創作小説

はなのひと


Flowery girl
第三話 「私の愛馬は凶暴です」より




 遅くに昇った月の光に照らされて、少女が眠っている。月光を受けているせいで、その白い面が余計に青く見えて心もとない。まるで命を閉じ込めてしまったかのように、少女は眠り続けている。少女の容貌はまだ幼く、守ってやらねばならないという気にさせる。この少女の持つ力をめぐって画策される大人達の思惑のおかげで、絶えず危険に晒されているなどとは想像もできないような、無垢な少女でしかないように見えた。

「ティファ、花を摘んできたよ」

 周囲を覗いながら、少年が少女の眠る医務室へ入ってきた。その少年――ガロードは足音を立てないように注意して少女の眠るベッドに近寄ると、その閉じられた瞼にそっとささやいた。ティファと呼ばれた少女が目覚める気配がさっぱりないのはガロードを不安にさせるが、でもそのおかげで臆面もなくこうして見つめていられるのはちょっとだけ嬉しいかもなとも思ってしまう。そんな考えを追い払うように頭をぶんぶんと振ってみせて、ガロードは新しい花を花瓶に挿した。

「綺麗だよ、目を覚まして見てごらん」

 ティファは応える素振りも見せない。ガロードの目が悲しげに細められるが一瞬のこと、作り笑いを浮かべて、また少年はささやきだした。

「これ、なんて花なんだろうな。知っているか?オレさ、こういうのってあんまり知らなくってさ……ティファなら、女の子だから知ってるかも知れないな」

 舷側の窓から月が見える。ティファを青白く照らすその天空の鏡を、ガロードは恨みがましく睨んでみせた。ティファがもたらした月の力――最強のモビルスーツ・ガンダムXに搭載されたサテライトキャノンによって、ガロードとティファは二人の乗るガンダムXを狙ったモビルスーツの大群に囲まれるという窮地を脱することができた。しかし、サテライトキャノンはその場にいたモビルスーツを全て焼き払ってしまった。その奪われた生命の叫びをまともに受け止めてしまったティファは、断末魔に似た叫びをあげたと思ったら倒れ込んでしまい、その日からこうして昏睡状態に陥ってしまっているのだ。ティファがこうなったのもあの月のせいなのだ、そうガロードは逆恨みをしているのだ。


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