Camille Laboratory Top機動新世紀ガンダムX>創作小説

の降る夜



Starry Night
Jamil & Techcs in AW0005




 その日も太陽は姿を見せないまま、光のない夜が訪れていた。

 5年前に戦争があって、空が落ちて来た。それ以来、暖かな恵みを育んでくれるはずの太陽は厚い雲の向こうに隠れたまま、戦後に生まれた子供達は太陽も月も星も青空さえも知らずに育っていた。それでも、最近は「日中」にはほのかな暖かさが感じられるようにはなっていた。わずかな雲間から天使の梯子が降りる日もある。いつか風が吹いて、この雲が晴れる日もくるだろう。その時には、きっとあの青い空が帰ってくるのだ……人々は、そんな期待さえ抱くようになっていた。

 そんな人々が身を寄せ合って暮らしている小さな町の一角に、掘っ立て小屋のような医院があった。今夜は珍しく風が強く、粗末な建物はきしんだ音を立てていた。医院の窓のカーテンの隙間から微かな明りが漏れている。この医院の医師、テクスはこの時間になってもまだ仕事をしているらしかった。眼鏡を外して眉根に指を当て、瞬きをする。フゥ、と息を漏らすと、彼は机の上の時計に目をやった。

「もう、こんな時間だったのか」

 テクスは古くなったカルテを整理していたのだが、今晩はもう明りが使えないと知って、机の上を片付け始めた。カーテンで仕切っただけの隣室では、彼の抱えている中では最古参の患者であるジャミルがおとなしく寝息を立てていた。患者とはいえ20歳の彼は身体的には健康そのもので、今ではテクスをよく手伝ってくれる頼もしい助手だった。ジャミルの問題は5年前の戦争で心に負った深い傷――精神障害だった。表立った心身症はもう見られなくなっており、初対面で彼の病に気付く者はまず居ない。寧ろ、深い所に傷を負ったままの彼の言葉に癒される者さえいるのである。それだけ、この荒れ果てた地表さながらに、人々の心は荒んでしまっていたのだ。テクスは明りを落とすと、音を立てないように気をつけて戸外へ出た。


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