Camille Laboratory Top機動新世紀ガンダムX>創作小説

落日


Sunset Monologue
最終話「月はいつもそこにある」より




 コロニーの夕暮れは、やはり美しいとランスローは思う。

 それは、自分がコロニーの夕暮れしか知らないからだ、とは分かっている。地球の夕暮れなど、連邦の無能な政策のおかげで母なる星の大気が如何に汚染されているかを示すための資料映像でしか知らないからだ。

 それでも、この夕暮れはやはり美しいと思いたかった。地球との比較でなく、ただ単にそれが美しいものであるのだと。だから自分はこの美しさを守りたいと思えるのだと。

「そうでも思わなければやっていられない……というのは、ジャミルに弱気だと笑われるかな。」

 ランスローは、軽く自嘲するように口の端を上げると、夕暮れから手元の書類へ視線を戻した。だが、目は文字を追おうとしてくれなかった。だから、また窓の外の夕暮れを眺めることにした。

 今の自分の言葉で、その人物のことが気になった。ジャミル・ニート。15年前の第7次宇宙戦争で、ランスローと幾度も交戦した旧地球連邦軍のエースパイロット。戦場で出会い戦場で別れた彼を「ライバル」という言葉で表現するには、彼に対する感情は複雑すぎた。今となっては忌まわしいばかりの幻想に彩られたあの戦場で、彼こそが、敵味方でありながら自分を一番理解してくれていたと思えるからだ。

 15年を経て、地球からコロニーに連れて来られたティファという少女から、ジャミルの名を聞かされて、ランスローの中でどこか止まっていた時計が動き始めた。彼のことを忘れていた訳ではない。宇宙革命軍大佐という自分の立場を持ってすれば、ジャミルの生死を調べることはできたはずだが、敢えてそれはしないでいた。


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