Camille Laboratory Top機動新世紀ガンダムX>創作小説>躊躇いの銃爪

 夜空の下、フリーデンはアルタネイティヴ社のラボを目指していた。夜間シフトに入り、思いがけない告白を聞いたサラとトニヤが、それぞれに医務室のテクスを尋ねてきた。
『キャプテンってば、珍しく喋るもんだからすっかり聞いちゃってたけど……コロニー落としに関わっていたなんてね』
 トニヤこそ珍しく落とした声音でこぼすのに、サラが頷いた。
『あれは革命軍が落としたんだって、聞かされていたものね』
 打ち明けられたその場では、ジャミルの思いに取り込まれたのか、納得した顔で行動を共にすることにした彼女らとて、時間を置いて冷静になってみれば、誰かと話をしたくなったものらしい。テクスは自分の知る十五年前のあの日を思い出して、口を開いた。

『革命軍は勝利を焦ってコロニー落としを強行した。確かに連邦軍は──あいつはそれを止められなかった。でも、あれだけのコロニーが一挙に落とされたんだ、いくらビットモビルスーツを擁したガンダムに乗っていたって、人間の手で止められるものじゃなかった』
 そのテクスの言葉に、トニヤが目を丸くした。
『……じゃあ、キャプテンが銃爪を引いても引かなくても、コロニーは落ちたってこと?』
『そうかも知れんな』
 テクスが頷くのに、サラはふと視線を伏せた。
『でも、キャプテンは自分の責任と思って、傷ついて……』
『人間の心というものは、そう強く出来ているものじゃない。まして、あいつはあの時十五歳だった。今のガロードと同じでな。自分が引いた銃爪と、落ちてしまったコロニーと、荒れ果てた地球とを、どうしても一緒に考えてしまうのだろうさ』
 テクスの言葉に、室内に沈黙が広がる。やがて、トニヤがぽつりと呟いた。
『きっと今のガロードと同じで、キャプテンも一杯一杯だったのよね』
 テクスは、黙ってコーヒーをトニヤに差し出した。

 ――カップの底に残ったコーヒーは、もう随分冷めてしまっていた。何故急にこんなことを思い出したのか、その日もジャミルが来なかったからだろうかとテクスは思いを巡らせていた。きっと今あいつは、あの日と同じように、かつての自分に向き合っているのだろう。テクスは冷めたコーヒーを飲んでしまうと、机の上のカルテをまとめ始めた。


 信じているから、銃爪が引けるのだと。
 十五年前にその銃爪を引いたかつての少年は、ガロードにそう言った。
「カトックが言っただろ、過ちを繰り返すなって。それを思い出して、そしてジャミルのことを思い出して、俺随分躊躇った。出てきやがったモビルスーツの大群を撃つしかない、でも撃てない。どうすればいいんだって。多分おっさんに会う前だったら、躊躇わずにサテライトキャノンを撃ってたと思う。でもそうは出来なかった」
 ガロードの言葉が終わるのを待って、ジャミルが口を開く。
「でも、お前はその銃爪を引いた」
 二条の閃光は、飛来したモビルスーツの大編隊ではなく、ゾンダー・エプタに吸い込まれていった。人工島は真っ赤に燃え盛り、モビルスーツ隊は攻撃もせずに引き返していった。
「それは、信じていたからじゃないのか」
 ジャミルの静かな声を、ガロードは黙って聞いていた。
 何を信じていたというのだろう。
 ゾンダー・エプタを脱する船の光は見た、と思う。でもそれが全てであったかどうかなど、今となっては分からない。
 あの島を撃って、それで本当に良かったのか。
「お前には資格がある」
 その声に、ガロードは顔を上げた。
「資格って?」
「信じること、そして――その躊躇いを覚えたことだ。お前には、銃爪を引くだけの資格がある」
 ガロードには、サングラスの奥のジャミルの瞳がどこか微笑しているように思えた。暗いデッキに黒いサングラスでは、瞳など透けて見えるはずはないのだが。それがどういう意味を持つものなのかは分からない。でも、ジャミルの言葉は、信じるに足るだけの力があるように思えた。
「あんたがそう言うのなら、俺、信じるよ」
 信じることが、力になる。躊躇いの先に見えたものが、支えになる。
 それは全て過ちを繰り返させないために必要なものなのだと、今のガロードには思えた。

(0308.16)



あとがき

 この「銃爪」と書いて「ひきがね」と読ませるのはGXならではで。回想があっちへ行ったりこっちへ行ったりと忙しいんですが〜。ときた版KCでは確かオチが違ったはずだと、もう最後になって単行本発掘作業でございました。でもま、基本はあくまでアニメ本編なんですけどね。

 駄菓子菓子、Gコン問題についてはDVD-BOXでのオーディオコメンタリーにて高松監督自らの解説がありまして、うわっそうかそうだったのか状態に(^^; うーんコメンタリーに合わせて文章直そうかどうしようか迷ったんですが敢えてそのままにしときました。いや確かにそう言われればそうなんだよなぁって。ほんとこの話も含めて、コメンタリー聞けて良かったです。BOXにしかコメンタリーは入ってないので、市場にある間にどうぞです(^^)

 ただ何ちゅうか、あれだな。自分の書くジャミルとガロードというのは、「本当はこうあってほしかった理想のクワトロとカミーユ」を被せてしまってる部分もありますね。と、しみじみ思う劇場版Ζのこの年です。……とか言い出すと、あれだけコロニーが雨あられと降り注いでたら、15年であそこまで地球環境回復できんのかとか思いますが(^x^; ブリティッシュ作戦で1基落ちただけでもえらい騒ぎだったのに。って、にしては7年後のΖの世界はのほほんとしてるように見えるなぁ(以下略) えぇと因みに「ためらいの照準」だと「太陽の牙ダグラム」#12のサブタイトルです。この話も好き。

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