Camille Laboratory Top機動新世紀ガンダムX>創作小説>七つの夜、七つの夢

 七 Dreaming Moon

 彼はもう随分長いことこうしているらしかった。しかし、『時間』という観念すら、彼にとっては意味のないことかも知れなかった。はるかな闇と悠久の光の狭間にたゆたう彼には、『現実』すらも意味をなさないのかも知れない。

 しかし、彼がそこに居ることは確かだった。いつからこうしているのか、何のためにここにいるのかも分からないまま、彼はそこにいた。彼に分かるのは、引き裂かれたものの痛みと、世界を取り巻く誤解。きっとそれを伝えるために彼はここに留まって居るのだろう。

 彼を包むものは天空にある憂鬱と、完全ではない浮遊感。微かな力が彼を留め置かせて、彼という存在を四散させないでいる。この力がなければ、伝えるものも伝えられずに、彼はあの青い星に別れを告げていたことだろう。

 長い夜と長い昼、それをいくつも通り抜けて、彼はずっと世界を見ている。でもそれは、手を伸ばしても届かない、声を出しても届かないところにあるもの。もし彼の見ている世界が幻なら、きっと彼は長い長い夢の中に居るのだ。


(9707.29)



あとがき

 「GX劇場」でも書いているんですが、GXは大体5話単位で一つのおはなしになっています。その「第1部」終了時点でのそれぞれの夜と夢、という感じで書いてみました。個々のおはなしでありながら、一応連続というか連鎖しているようなイメージなんですが……如何でしょうか。

 タイトルの元ネタは Nav Katze「新月」の中の曲名から。詩編の「lilac moon light」とかもやはり Nav Katze から来ていたりします。すごーく好きなんですが、今頃どうしているのやら〜。



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