Camille Laboratory Top機動新世紀ガンダムX>創作小説

夕凪



Sunset Dialogue
AW0016 : Jamil & Lanslow
挿絵:かすみきりこ・あやおり




 新連邦軍と宇宙革命軍の停戦協定を巡る会談は回を重ね、ついに会談の場が地球上に設けられることになった。暫定的に自治権を回復したセインズアイランドがその会場に選ばれ、傷ついた街はにわかに活気付き、かつての美しさを取り戻そうとしていた。宇宙からの客人を迎える頃には、表通りも華やぎ、歓迎ムードに沸きかえった。初日は旅の疲れを癒して貰う意味合いも含めて公式行事は設定されず、双方共明日から始まる会談に向けての準備に余念がなかった。

「ちょっと出掛けてくる。後を頼む」
 いつもながらの素っ気の無い言葉を掛けて、新連邦軍和平協議会の代表であるジャミル・ニートは、私服でホテルの部屋を出て行こうとした。サラ・タイレルは資料を整理する手を止めて、席を立った。
「こんな時間にですか? じきに夕食ですが……」
「明日はともかく、今日は予定はないはずだろう。すぐに戻る」
 こういう言い方をする時の彼を止める手立てはない。そのことはよく分かっていたから、彼女はふと目蓋を伏せると微笑で見送ることにした。
「分かりました。お気をつけて」
「あぁ」
 短く頷いて、ジャミルは姿を消した。

「待たせたな」
 ジャミルは革命軍側の滞在しているホテルの程近くにエレカを止めると、派手なシャツを着込んだ長身の赤毛の男に声を掛けた。夕方とはいえまだ明るい街角で、人待ち顔をしていた彼のその格好は、南の島ではありふれているのだが、どうにも隙がなさすぎる。
「いや、今来たところだ」
 サングラスをずらしてみせた、その瞳が笑っていた。革命軍側の代表として地球に下りてきた、ランスロー・ダーウェルだった。

by かすみきりこ

「……その方が何だか目立たないか?」
 半ば呆然とランスローを見遣りつつジャミルがそう言うと、ランスローは助手席に乗り込んで、同じようにサングラスを掛けているジャミルに言い返した。
「そう言う君はどうなんだ」
「この顔の方が、慣れている」
「だそうだな」
 笑みを含んだランスローの言葉を聞きながら、ジャミルはエレカを発進させた。

「誰に聞いた?」
「誰でもいいだろう」
 該当者など、フリーデン時代からジャミルの側に居たサラ一人しか居ない。
「何と言っていた?」
「彼女は、サングラスを外した顔の方が好きだと言っていた」
「そうか、」
 その言葉なら、ジャミル自身も耳にしていた。長らく外せずに居たそのサングラスを外せた日のことが、つい昨日のようにも思える。その日は、十五年前に戦場で別れた好敵手であるランスローと、初めて顔を合わせた日でもあった。


1/3 ◆nextTop機動新世紀ガンダムX