Camille Laboratory Topガンダム・ザ・ライド

駆け抜けた宇宙
〜ジャック・ザ・ハロウィン隊戦記〜


GUNDAM THE RIDE -A BAOA QU-




 ――U.C.0079.12.24
 ソロモンが陥落した。ジオン軍の防衛ラインにあって難攻不落とされた脅威の宇宙要塞は、ついに連邦軍の手に落ちたのだ。伝え聞くところでは、今後は「コンペイトウ」と呼ばれるようになるらしい。日系の幕僚の命名センスなのだそうだが、元を辿ればポルトガル語に行き着くのだという。何はともあれ、上層部の浮つき加減が分かろうというものだ。前線にいる兵士には、そんな名前一つを気にしている余裕などあるものか。


 そこまで書いて、ジャック・ベアード少尉はため息とともに日記を閉じた。
 本当に書きたいことは別にあった、でも、これ以上書くことは彼にはできなかった。長い睫毛に縁取られた瞼を伏せて、照明を落とした部屋にひとり、物憂げな容貌をさらしていた。


 ソロモンを巡る戦いは、彼にとっては初めての激戦であった。大体、士官学校を繰り上げ卒業させられて少尉に任ぜられ、初めての宇宙にまだ戸惑っている最中だというのに、一小隊の指揮を任されて二月も経っていないのだ。部下は名うてのつわもの揃い、小隊長としてはナメられる訳にはいかなかった。しかし、今日という日にあっては、自分が生き延びられただけでもよしとしなくてはならなかった。ジャックは、今更のように着任の日を思い出していた。

『本日付けでこの第三小隊の小隊長に任ぜられた、ジャック・ベアード少尉であります。どうぞよろしく。』
 敬礼をしてみせる顔は、まだ幼げで、とても戦場には似合わなかった。明るい色の髪をして、前髪の長さはまだ少年のものだった。深い碧の瞳は人を殺したことなどない無垢な魂を映している。立ち居振舞いには育ちの良さがあるとみえ、素直な声音はまだまだ世間知らずのお坊ちゃんそのものだった。ただ、繰り上げ卒業とはいえ士官学校を出た少尉ではある。新米ではあっても士官としての自覚と、厳しい訓練に耐えただけの意志の強さと負けん気の強さは、すらりとした眉に強く出ているようではあった。


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