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newcomer welcome party
新入生歓迎会
KYO vs SHIMA round.2
entanglement16「復活の戦場」より
舞浜サーバーのリセットから一晩明けた、四月五日の朝。
舞浜南高校三年B組の教室を覗きこんでいたソゴル・キョウは、溜息をついて廊下を振り返った。そこでオケアノスでおなじみの顔を見つけると、片手を上げた。
「うっす、イリエ先輩」
「おはよう。どうしたの、こんなところで」
一年生のキョウが何をしているのかと、言外で咎めるようにイリエは目配せをした。
「シズノ先輩は? 確かB組じゃ」
カミナギ・リョーコのことで、キョウはどうしてもミサキ・シズノと話したかった。
キョウを取り巻く真実を知りたいという想いから、リョーコはセレブラントとして目覚めてしまい、ウィザードとしてシズノに代わり、キョウとパートナーを組むことになった。だが初出撃の際に転送事故に遭い、リョーコの幻体データはロストしたと思われた。奇跡的に圧縮ファイルが発見され、リョーコは生きていたとキョウ達が喜んだのもつかの間のこと。リョーコの幻体データの感情領域はゼーガペイン・アルティールに取り残されており、戦闘時にしか元のリョーコで居られなくなってしまっていた。舞浜でのリョーコは市民病院に入院中で、学校には居られなかった。
昨日はそんなリョーコのことで一杯一杯で、ようやく一息ついてシズノと話そうとしたときには、彼女の姿は見えなかった。明日また学校で会えばいいさ。そう思ってキョウは早めに登校したのだが、やはりシズノの姿はなかった。
「聞いてなかったの? 彼女はここには居ないわよ」
驚いたようなイリエの言葉に、キョウは丸く見開いた目をきっと細くした。
「どういうことだ?」
キョウの低い声に、イリエは彼の真剣な顔を真っすぐ見つめて、静かに口を開いた。
「今期の三年生の名簿には、シズノの名前がないということよ」
「何で!?」
ここでイリエを問い詰めても仕方ない。それが分かっているから、キョウは踵を返すと、話が出来る相手の居る生徒会室へと飛び込んだ。
「どーゆーことだよ、生徒会長!」
「朝から何事だ」
朝日の差す生徒会室で一人書類に目を通していたシマは、キョウが跳ね上げた声に視線を上げた。
「何でシズノ先輩が、学校に居ねぇんだよ」
「何か不都合でも?」
シマを問い詰めるつもりが問い返されて、キョウは机に勢いよく両手をついた。
「不都合とかって、そういう問題じゃねぇだろ!」
「イェルが元々舞浜の人間ではないことくらい、君も知っているだろう」
低い声でそう告げるシマは菫色の瞳でキョウを見据えた。
「それは、そうだけど」
シズノが転校生として舞浜に来たのは知っている。だが、シマの言葉にはそれ以上の意味が含まれているようにキョウには感じられた。シマは彼女をイェルと呼ぶけれど、それも特に聞き返したことはない。キョウが把握しきれていない、かつての自分の記憶にある名前なのだろう。
「イェルが舞浜に降りたのは、君を目覚めさせるためだった」
シマにそうはっきりと言われてしまうと、その言葉はキョウの胸に突き刺さる。逆光で影の落ちるシマの顔を見据えて、やりきれない想いがキョウの声音に混じる。
「その用が済んだから、もう学校に居なくてもいいってのかよ」
「不都合はあるまい。寧ろ今の君には好都合ではないのか」
その冷ややかな声音に、キョウはシマを睨みつける。ノックが響いて、失礼しますという高い声と共に戸が開いた。
「まだ一年生が来るところじゃないわよ」
ミナトはキョウにそう言って、教室に戻るように諭した。入学して二日目の一年生が生徒会室に居るのは不自然だというのだ。シマに言い返せる言葉もなく、キョウはむっとしたまま出て行った。
「今のは前哨戦ですか?」
亜麻色の髪がふわりと振り返って、水色の瞳が問い掛けてくる。ミナトは今しがたのやりとりの内容を知らずに、ただ二人の図式だけを見てそんなことを訊いているのだ。
「そんなところだ」
シマはそう答えると、指先で眼鏡を直した。
リセット前の八月三十一日、次の日の四月四日、そして今日。キョウのリブート後の初のリセットに、リョーコの転送事故。キョウにとってそんな一大事ばかり続く中、シマは三日連続でキョウと一対一で向き合っていることになる。だが生徒会長のシマと一年生のキョウが顔を合わせるのは、公式には今日の午後が初めてだ。
失礼します、と声がして、イリエとクロシオ、そして他の生徒会役員も集まってきた。
「やあ皆、朝からご苦労様」
先ほどまでとはまるで別人のようなのどかな声で、シマは他の役員を迎えた。
「おはようございます。今日はどうぞよろしくね」
ミナトはそう言って、机の上の書類を手に取った。
その日の午後は、生徒会主催の新入生歓迎会が催された。生徒視点での学校の紹介や、今後の生徒会の行事の説明に続き、委員会活動や部活動の紹介が行われた。体育館には全校生徒が集まり、一年生や上級生のそれぞれの期待が入り混じった、独特の活気が満ちていた。
合唱部の演奏などの定番の演目だけでなく、何故か野球部の寸劇や、夫婦漫才と化した生徒会長のシマと副会長のミナトの司会で進行する部活紹介に笑いが起きる。部活をどこにしようか決めかねている一年生は、生徒会が編集したパンフレットを見ながら、口々に囁きあっていた。
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