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不文律


Unwritten law




 エゥーゴが正しくは軍隊でないと同程度に、アーガマも正規の軍艦ではない。そこには軍隊に酷似した組織統制があるにも関わらず、明文化された独自の軍規が存在するという訳ではなかった。勿論、母体となっている地球連邦軍の軍規や、一部成文化されている契約条項などはあるにせよ、艦内にはかなり自由なムードが漂っていた。しかし、そんな中にも、アーガマにはアーガマなりの不文律というものがいくつか存在していた。

 その時刻、平時だというのに――いやだからこそ戦場と化しているブロックがいくつかあった。医務室とモビルスーツデッキは幾分落ち着きを取り戻していたが、食堂と下士官用のシャワールーム、そしてランドリールームはまだまだ混雑の最中と言えた。

 ランドリーの洗濯機はそれなりの数が揃えられていたとはいえ、スペースには勿論限りというものがある。一仕事終えたパイロットやメカニッククルーが我先にと詰め掛けて、そう広くもない室内はごった返していた。正規軍であればこうした雑用を任せられる要員も用意されているものだが、何せそこは年中無休で人手不足のエゥーゴである。初期の頃こそレコアや一部のクルーが担当してくれていたこともあったが、そうした人材さえ作戦行動で最前線送りとあっては、洗濯も各自で行う羽目になる。一部のクルーの間ではグループを作って当番制にしてまとめてしまっているようだが、いつスクランブルが掛かるか分からないパイロットなどは当番さえ決められない始末なので、結局自分で時間ができた時にやらなければならなくなるものだ。

 しかしこうしたパイロットやメカニッククルーの多くを占める男性などは、洗濯物なんてものはついつい溜めてしまうのが習い性というものである。そんな男性陣が大挙して洗濯物の山を抱えて押し寄せている光景というのは、やはり女の子は目眩を覚えるものらしく、この人波の中に女性の姿はまるで見当たらなかった。異性の目がないと人は妙に大胆にもなるもので、いつの間にか、
『戦闘直後のランドリーは男性パイロット・メカニッククルー優先(女の子は来ない方が良いよ)』
 などという不文律が出来上がっていった。


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