その優先枠(?)でランドリーを使ったカミーユは、まだ水気を含んだ洗濯物を抱えて自室に向っていた。ランドリーの洗濯機はボタン一つで乾燥まで全自動でやってくれるものだが、彼は乾燥機を使うのがどうも気に入らないらしく、自室に持ち帰って室内で干すということをやっていた。誰に見つかっても、『面倒じゃないの?』とか、『折角乾燥機があるのだから使えば良いのに』とか、『たたんで干す時間が勿体無いじゃない』などと言われるのだが、彼は素知らぬ顔で『少しずつやっていれば苦にはなりませんよ。』と答えて、今日も乾燥機を使わなかったのだ。
彼にもう一言ほど言わせれば、混んでいるランドリーで乾燥機まで使うと占有時間が掛かるし、たたんで干した方がしわにならなくて良いのだそうである。乾燥機を使ったところで、これも乾いたところできちんとたたんでおけばしわにはならないのだろうに、彼は頑として自分の流儀を変えようとはしなかった。まぁ、いつものことである。
少しずつ、なんて言ったくせに、その日のカミーユの洗濯物は実はちょっと多かった。少しくらい乾燥機に掛けてくれば良かったかなぁと、なんとなく後悔しながら自室のすぐ前まで来て顔を上げると、ファの驚いたような丸い目が飛び込んできた。二人はぶつかりこそしなかったが、二人が抱えていた洗濯物の山が一部崩れてしまった。
「ごめん、カミーユ」
ファはすぐさま廊下に落ちたカミーユの洗濯物を拾い上げ、それがまだ乾いていないことを知って、もう一度ゴメンナサイと口の中で言った。カミーユは一瞬むっとしたものの、廊下に落ちた子供物のTシャツに目を止めた。つい先日からファが面倒を見ることになったシンタとクムという子供達のものらしい。一体どういう事情からか、クワトロ大尉が地球から帰還してきた際に連れてきたのである。カミーユはファの落としてしまった洗濯物を拾うと、彼女のバスケットに入れた。
「良いよ、出直してくるから――って、ファもこれから洗濯なんだろ?」
「そのつもりなんだけど……まだ混んでた? それを聴きたかったんだけど、」 ファは例の不文律を気にしているのである。カミーユはバスケットを片手に抱え直した。
「混んではいたけど、もう終わる頃だろ。付き合うよ。」
カミーユは空いた手にファのバスケットを取ると、今来た廊下を引き返した。
「あ・ありがと。」
ファは慌ててカミーユを追った。
角を曲がればランドリーというところまで来たのに、辺りは静まり返っていた。いくらなんでも不自然な静けさに、ファは何とはなしに臆したようで足を止めたが、カミーユは意に介さずそのまま歩いていく。
「何かおかしくない?」
「何がさ? 誰もいないんだったら好都合じゃないか。」
「そりゃそうだけど……」
カミーユの後ろ姿がランドリーに消えた。
「あ、おつかれさまです、」
声を掛けるカミーユの声が聞こえる。
(何だ人が居るんじゃない、良かった。)
ファがそう思ってランドリーに入ると、そこに居たのは何やら場違いとも思える人物だった。
「ほぅ、ファも一緒か。仲の良いことだな。」
「く・クワトロ大尉……おつかれさまです。」
「ここ、空いてますよね?」
ファの戸惑いもよそに、カミーユはクワトロに問い掛けている。
「私に聞かなくても、見れば分かるのではないのか?」
「そりゃそうですけど……シャツが一枚残ってるんですよ。」
「私が来た時にはもうそこには誰も居なかったからな。そのうち取りにくるだろう」 |
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