Camille Laboratory Top機動戦士Ζガンダム>創作小説>不文律

「なら良いんですけどね。じゃ使います。……ファ、何してんの? 空いてるの見つからないのかい?」

 カミーユとクワトロの至って普通の日常会話というものをぼーっと聴いていたらしいファは、目をぱちくりさせて手近な洗濯機を開けた。
「う、ううん。ここ空いてるから使えるわ。」
 カミーユは廊下に落としてしまった洗濯物を洗濯機に入れると、ポケコンを取り出して、洗濯機の側面のパネルを開けるとそこに接続した。
「何してるの?」
「ここの洗濯機、細かい設定ができないからさ……ほら、」
 液晶画面に詳細な設定用パネルが表示されている。
「どうしたのよこれ?」
「こいつの設定パネルは機能が限定されてるんだけど、もともとのチップは民生用のと同じものだからね、それと同じように使えるようにしたのさ。これだと、脱水でも何でも分単位で設定できるからね」
 カミーユはポケコンのキーを叩いて細かい時間の設定を入れているらしい。

「よくそんなの調べたわよね。」
 半ば感心し、半ばあきれたようにファは言いながら、ちらっとクワトロの方を盗み見た。クワトロとはグラナダで世話になって以来の再会である。その彼がランドリーに居るからには彼もオフなのだろうに、彼は至って普段どおりの赤い制服を着て、それでもベンチの真ん中あたりに腰を掛けて、備え付けの雑誌などをめくっているのである。いや確かに他の場所でこういう格好というのは見慣れていない訳ではないが、今回は場所が場所だ。ランドリーなのである。用事といえば洗濯をしに来た以外考えられないのだ。

 とはいえクワトロだってアーガマのクルーには違いない。自分のことは自分で、という雰囲気の漂うこの艦ではクワトロとて自分で洗濯くらいするのだろう。でもさすがに艦長やクワトロ大尉ともなれば他のひとがしてくれそうなのに、とは思うのだが、同じランドリーに居るのはカミーユとファの他にはクワトロだけなのだ。その事実の前にはどんな想像も無力というものだ。

「どうした?」
 クワトロに声を掛けられて、ファはびくっとした。
「い、いえ。何でもありません。」
「私がここに居てはおかしいかね?」
 いきなり核心をつくその問いに、ファは首をぶんぶんと横に振った。
「そんなこと、ないと思います。……えっと……シンタもクムも言ってました、クワトロ大尉はとても優しかったって。」
 前後の文脈が今一つあっていないような気がするが、クワトロはそのことは気にしなかったようだ。
「そうか。子供達はもう寝付いたのか?」
 そう答えるクワトロの穏やかな声音と柔らかな口元だけでなく、濃いサングラスの下で見えない瞳が、微笑んでいるように感じられた。ファはつられるように微笑みを返した。
「はい、戦闘の後だったんで心配だったんですけど……寝付いてくれました。」

「それで早く洗濯をしたかったのか、」
 カミーユが洗濯機から離れてベンチに腰を下ろしながら言った。彼はクワトロのすぐ左に掛けたので、あと空いているのはゆったりしたクワトロの右か、ちょっと狭いカミーユの左……ファは真っ直ぐカミーユの左に掛けた。
「あまり着替えもないから、ちゃんと洗ってあげたくて。」
 左から右に視線を移して、カミーユは静かに口を開いた。
「一体どういうつもりなんですか?」
 同行していたはずのブレックス准将を伴わず、あんな子供達を連れて来て。
 そのカミーユの問いはアーガマクルー全体の問いでもある。しかしクワトロはサングラスにちらっと手をやって、
「自分の良心に従ったまでのことだ。」
 としか答えなかった。


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