それからしばらく静かな時間が過ぎた。子供たちの面倒を見るのにまだ慣れないらしいファは、カミーユに寄りかかってうとうととしてしまっていた。アンナとの相部屋に慣れてきたところで、子供達を預かることになって個室に移れたものの(とはいえこれでは三人部屋だ)、まだまだ気の休まる間もないようだ。電子音が鳴って、ファははっと目を覚ましたが、カミーユが『ちょっとごめん、』と言って席を立った。
なぁんだ、と一息ついてファはあくびをかみ殺した。一人分の間を空けて、クワトロと二人でベンチに残された自分が、妙に心許なく思えた。カミーユはすすぎと脱水を終えた洗濯機に、先ほど廊下にこぼれずに済んだ洗濯物を足し入れた。ポケコンをまた取り出して、お手製の操作パネルを表示させると、ちらりとファの方を振り向いた。
(え? 何?)
ファの顔はそう言っているが、その直前の表情をカミーユは見逃していなかった。カミーユはファが使っている洗濯機のパネル表示を覗くと、手元の自分の操作パネルに何やら打ち込んだ。ポケコンを外してベンチに戻ると、自分もふわぁ、とあくびをした。
「あくびって、どうしてうつるんだろう?」
呑気にそんなことを言うカミーユがなんだか可笑しい。
「そんなこと知らないわよ。ハサン先生にでも聞いてみたら?」
言うそばから、今度はファにあくびがうつる。カミーユは笑って、
「良いから寝ていなよ。」
と、ファの肩にぽんっと軽く手をやった。
「うん……ゴメン、」
ファの体の重みがやわらかく掛かってくる。ほのかな髪の香りに何処かしらくすぐったいものを感じながら、カミーユは改めて右を向いた。
「……」
「何が言いたいのだ?」
「別に、何もありませんよ。」
ぷぃ、と正面を向き直すカミーユに、クワトロは軽く笑った。
「しばらく見ないうちに大人びてきたと思ったが、」
その言い方は癇に障るが、そのまま言い返せばそれこそ子供の証左だ。
「思ったのに、何なんです?」
「いや、」
そうクワトロが言い掛けたところで先刻とは違う電子音が響く。ファがまた薄目を開くが、今度はクワトロが席を立った。彼は手早く洗濯物を取り出すと、カミーユの肩を軽く叩いてランドリーを出ていった。カミーユはクワトロの退出していった方をしばらく見やっていたが、またひとつあくびをすると、そのまま目を閉じた。
ばたばたばたばた。どさどさ。
そんな物音にカミーユがはっと目を覚ますと、ランドリーは混雑の兆しを見せ始めていた。それでもファは寝入ってしまったようで、まだカミーユの肩に体を預けている。ランドリーに入ってくるクルーは必ずそんな二人を見やってニヤニヤしていくのだから、迷惑なことこの上ない。カミーユは軽く舌打ちして手元のポケコンの液晶画面を確認するが、まだタイマーの残り時間は三分もある。その三分が非常に長く感じられるものになるのは必至、カミーユは思わず天を仰いだ。
「おいカミーユ、ここ、ひょっとしてクワトロ大尉が使ってたか?」
アポリーの声の方を向くと、確かにその通りの洗濯機の前である。
「あ、そうですよ。何か?」
「お忘れ物だ。」
アポリーはハンカチをひらひらさせると、脇の棚にぽんっと置いた。
「わっすれものーっ!」
そう言いながらランドリーに入ってきたのはトーレスである。
「なぁカミーユ、ここに忘れ物なかったか?」
トーレスは今カミーユが使っている洗濯機を指した。カミーユはあぁ、とうなづいて、トーレスにシャツを手渡した。
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