Camille Laboratory Top機動戦士Ζガンダム>創作小説>不文律

 クワトロがもう少しランドリーで時間をつぶすとか、せめて洗濯物が残っていないかきっちり確認してくれれば、カミーユとファの洗濯が終わる時刻になっていたかも知れないのだ。こっちはファがクワトロと二人になるのを心許なく思っているのが分かればこそ、普段使わない乾燥機まで使って、しかもファの方の残り時間とぴったり合うようにポケコンの操作パネルで乾燥時間の設定までして最後まで付き合ったのに、何だって大尉は……! と、カミーユはどこまでも自分の都合で頭に血を上らせていた。久しぶりにゆっくり顔を合わせて、他にも話したいことが山ほどあったはずなのに、そんなことは因果地平の彼方へ忘れ去ってしまったようだった。まぁ、いつものことではある。

 電子音にアポリーはベンチを立ち、洗濯機を開けた。
「どうだ?」
「オッケーだ。クワトロ大尉の使った後だから焦ったんだがな」
 アポリーはほっとして、白いシャツをバスケットに入れた。
「そんなに色落ちが酷いのか? あの制服」
 後からやってきたアストナージが、声をひそめてアポリーに尋ねていた。
「カスタムメイドなのは間違いないからなぁ。でもいくら何でも色落ちなんて最初だけだろ? あんなの都市伝説だよ。」
「でも実際色落ちは……あったんだし。」
 アストナージの声が疲れたように響くのは、何も彼の激務のせいだけでもないようだった。アポリーもバスケットに洗濯物を移す手を止めて、大きなため息をついた。
「あの時は焦ったよなぁ。だから俺、『自分が一緒にやっときます』って言ったのに、何故かクワトロ大尉は自分でやっちゃったんだよなぁ……」

 クワトロは『色物と白物を一緒に洗ってはいけない』という洗濯の基本中の基本を知らなかったらしかった。いつもの赤い制服と下着を一緒に洗濯機に入れて電子音が鳴り、彼が洗濯機を開けたとき……ランドリーに戦慄が走った。

 クワトロが手にしていたのは、見事にピンクに染まった下着だった。

 そう、表現するなら、かつてのジオンの赤い彗星──シャア・アズナブル大佐の専用機に使われていた通称「シャアピンク」を思わせるような、ほのかな赤みのあるピンク。ランドリーに居たアポリーやアストナージは何も見なかったふりをして、『お先に失礼しますっ!』と挨拶だけをしてそそくさと退室し、ランドリーから角を曲がった所で脱兎の如く走り出し、ランドリーに向かう連中を見つけると『今はランドリーに行くな!』と説いて回ったのである。これが、件の不文律の由縁となった事件について、彼らが知る限りにおいての真相である。

 自室に戻ったカミーユは洗濯物をたたむと、乾燥機で乾ききらなかった分についてはいつもどおりに部屋に干した。一仕事終えてふわぁ、とあくびをすると、そのままベッドに転がって静かな寝息を立て始めた。先ほどまでの怒り心頭はどこへやら、穏やかな寝顔だった。

 そんな彼は、先ほどの廊下でのクワトロとの会話を聞いた人物が居たことなど知る由もなかった。一夜明けて、別の新たな不文律がアーガマで確立されることなど夢にも思わず、すやすやと眠り続けていた。

(0007.30)



あとがき

 先月の「赤い衝撃」同様、本放送の時間軸でのアーガマほのぼの編です。#27「シャアの帰還」〜#28「ジュピトリス潜入」の間の頃のものでしょうか。今回はカミーユ書きの師匠との会話がきっかけでした。何故カミーユは洗濯物を部屋に干すのかという話から、クワトロの洗濯物はどうしているのだろう? となり、一旦自分でオチをつけたものの、その後兄貴と話していて、赤い真相が明らかになりました。

 お二人とも『アポリーが洗ってたんじゃないの?』説を出してくださいましたが、やはり人任せにしたくないものもあるんじゃないかと。でも月に居る時はキグナン(か彼の部下)がやってくれるのかなとか、乙女ならかみ子さんがやってくれることにするのかもとか、わたしも考えたのですけどね。しかし何かクワトロ大尉をあぁいう扱いにしてしまってファンの方には申し訳ないです(^^; 非日常の中の日常ではかみ子さんてばオタクなんだわね〜って感じですし(_ _;) 

 しかしま、本人が書いてて楽しかった話というのは、やはり読んでいただいた方にも楽しんでいただけるようで嬉しいですね。今回お読みいただいたみなさんは如何でしたでしょうか。


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