Camille Laboratory Top機動戦士Ζガンダム>創作小説

主のない部屋
涙の行方

Series : Teardrops
それを涙と書くのはね、海へと戻る約束のためだよ。


Without You
Destination of Tears




 その日、彼女がその部屋へ足を踏み入れたのはもう五度目だった。

 理由は正当なものであった。この部屋の主は既にこの艦を降りてしまっている。もう主のいない部屋なのだから、新しいクルーに部屋を明け渡せるように、残りの私物をまとめてしまう必要はあったのだ。でも実際にはもう殆ど片付いてしまっているのだから、五度も足を運ぶ必要などはなかったはずだ。しかし、また彼女はその部屋へやってきた。

 以前彼女がこの部屋の主の私物をまとめたのは、彼がこの艦を降りた時のことで、もう一月は前の話になる。その時に病院へ持たせた荷物でさえも衣類や身の周りのものだけで鞄一つだけだったのに、それ以外の彼の私物など殆ど無いに等しかった。そういえば昔から物には執着しないでいたような気がする。どちらかといえば物理的なものは興味の対象でしかなくて、執着するのはそういったものではなくてもっと違うもの。その焦点は彼自身の内にあったようにも見えて、でもそれすらも影の焦点でしかないことを知らされる。そんな捕らえどころのなさが、この部屋の主の身上だった。

 もう一度がらんとした部屋を見渡してみる。ベッドのサイドボードにあった仏像(何なのよこれ?)と日記帳(恐くて中は読めないけど、やっぱり後で見ちゃおうかな)は鞄の中に入れた。他に物がありそうな処は色々探してみたけれど、目に付いたのはツールボックスとホモアビスのグラビア誌くらい(まだこんなもの気にしていたのね)、多少は自分に見せられそうもないものでもあるのじゃないかと思った(ゴメン!)けれど、かけらも見つからなかった(ほっとするやらしないやら)。


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