Camille Laboratory Top機動戦士Ζガンダム>創作小説

陽炎の夏


Illusion Summer
GUNDAM ZZ #34 "Camille's Voice" ALTERNATIVE




 ダブリンに停泊していたアーガマに戦闘を仕掛けたサンドラは撤退した。戦場を取り巻いていた空気は次第に引いてゆき、いつしか風も凪いだようだった。高い夏の陽射しがこの波打ち際にも降り注ぎ、あたりには陽炎が立ち上っていた。目の前がゆらめくような光景は、ついこの間まで転戦していたアフリカの砂漠で何度も目にしてはいたものの、常春のスペースコロニーであるシャングリラ育ちのジュドー達にはまだ慣れないものだった。それが暖められた空気の悪戯なのだと理屈では分かっていても、まるで幻のような視界に思えてしまうのである。しかし、陽炎という自然現象にも増して彼らに不思議に思えるのは、つい先刻の戦闘での経験だった。

 アーガマクルーと偶然の再会を果たしたファ・ユイリィ。彼女は宇宙での戦闘中に漂流の憂き目にあったものの、幸いにもシャングリラに流れつき、彼の地の病院に入院していたカミーユ・ビダンの元へ戻っていた。カミーユは、先のグリプス2をめぐる戦いにあって極度の精神障害を受けたらしく、心身に深い傷を負ってアーガマを下りていたのだった。この忌まわしい戦争が始まる前は、ただの幼馴染みでしかなかった少年と少女。しかし今の少年には、目の前の少女がそのひとだとは分からない。彼の瞳に映るものは全てが陽炎であり、彼の世界に存在するものではなかった。その後情勢の変化もあって彼はシャングリラを離れ、このダブリンで彼女に見守られながら療養を続けていたのだった。ところが、アーガマを狙ったサンドラの攻撃がダブリン市街にまで及ぼうとした。ファはアーガマ艦長のブライト達と再会していた折りだったが、彼を心配して街に戻った。



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