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星の鼓動


The pulse of the Earth
Camille & Fa in UC0089
from GUNDAM ZZ #47 "Fighters again"




 打ち寄せる波の音が近くなり、周囲には誰も居ない。
 満天の星の下で、はやる心を抑えながら、足取りを確かめるようにゆっくりと歩いてゆく。
「もう少し、かな?」
 振り向いて、問う。
「かしらね」

 水平線の向こうに、臥待月が顔を出した。
 言葉はなく、ぬくもりだけが想いを伝える導体になる。
『Good luck,』
 ただその一言を、遠く成層圏の彼方まで……。

 青い月の光と白い砂浜。夜空を映した黒曜石の海。
 一定のリズムで寄せる波が、いつしか足下を洗ってゆく。
 足下に手を伸ばしてみると、てのひらの中で波が遊ぶ。
 ひざをついて二の腕まで水に浸してみると、波が腕にじゃれてくる。
 自然に、口許がほころんだ。

 バシャッ。
 砕けた波しぶきは、月の光に照らされ、海上の星になる。
 ゆっくりと海へ還る星々を目で追いながら、深呼吸をしてみる。
 深く息を吸い──ゆっくりとはいて。
 あ……波と同じリズムだ。
 意識の片隅でそんな言葉をつぶやく。
 全身を砂浜に預けたまま、波に洗われるにまかせて、ぼんやりと天頂の星々を眺めていた。

 星をこんな風に眺めるのは久しぶりだな。──尤も、前に地球に降りた時なんて、そんな余裕はありはしなかったのだけれど。
 天に星、足下に大地。
 頬をかすめる風と、この身体に寄せる波。
「生きてるんだよな、俺」
 声に出してつぶやいてみる。
「勿論よ」
 その答えを耳で聴く。波をはじく足音も聴こえる。

「ファ……」
 スカートの裾をつまんだ手をひざに当てて、上体を傾ける。
 夜空と同じ色をした長めの髪が、肩で止まらずに落ちてくる。
「いつまでもそんな風に寝てると、風邪を引くわ、」
「分かってるよ。でも、もうしばらくこのままにさせておいてくれないか」
「何故?」
 仰向けに心配そうな顔を覗きながら、しばらく言葉を探した。

「何だかね……気持ちが良いんだよ。こうしていると」
 今度はゆっくりと目を閉じてみる。身体に寄せる波の音と、自分の心臓の鼓動が、微妙に同調してゆくのが分かる。
「分かるんだ。自分が生きているということと、この星も生きているということが」
 この波は……この星の鼓動なのだ。
「生きているから、この星が生きているのが分かるんだし、ファが生きていて、こうしてそばに居てくれるってことが分かるんだ。それは──それが幸せなことなんだ、って分かるんだよ」
 何故だか、笑い出したくなって──その衝動に、負けた。

「カミーユ、」
 言葉を探してみるのだが、見付からない。
 顔を覗き込んでいる内に、海の方に垂れた髪が、砕けた波しぶきで濡れてゆく。
 ここまで濡れたら、後は同じかしら?  自分の考え方に、吹き出しそうになる。
 でも、その衝動を彼と同じものに変えられたら──
「幸せ、だね」

 寄せる波は、ふたりに星を贈った。
 臥待月は、少し見上げる高さから、青いヴェールを投げかけていた。


(9105.01)



あとがき

 一応ΖΖ最終話ってことで。散文詩と小説の間みたいな妙なものになりました。因みに、ここで「臥待月」だった月が、「そして約束の海へ」で「地球照(→新月に程近い)」になってるあたりで時間の経過を見てください〜っていうのは無理があるでしょうか。

 ……って。こんなささやかながらカミーユとファでらぶらぶENDとゆーモノを書いてから14年も経って、「誰も知らないラスト……新訳Ζ完結編。」などという劇場版Ζ第3部の題名が「星の鼓動は愛」になるとは夢にも思いませんでしたよ。えぇ。

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