Camille Laboratory Top機動戦士Ζガンダム>創作小説

Kyrie


Kyrie eleison.
Christe eleison.
Kyrie eleison.


Camille & Fa in UC0088/0094




I U.C.0088

 カミーユはここには居ない。
 そう思ったのは、何も初めてのことではないのだけれど。
 この手に触れる彼のぬくもり、頬を掠める息遣い。
 それは感じられるのに、でも、カミーユはここには居ない。
 目の前に居るのに、彼の目は何か別のものを見てしまっている。
 そう思ったのは、何も初めてのことではないのだけれど、でも、これは、以前とは明らかに何かが違う。
 そうは分かっても、それがどういうことなのか、ファには理解する術がなかった。
 ただ分かるのは、カミーユはここには居ない。それだけのこと。


 アーガマを離れ、シャングリラさえ後にして、ここは地球、ダブリン。
 古い港町の病院の片隅に、こじんまりとした教会があった。病院を運営する教団のものであり、病気と立ち向かう患者や医師らを支える祈りの場でもあった。
 その教会から、微かな歌声が響いていた。
 ふと歌声に足を止めて、ファは空を見上げた。
 何もない、ただ何もない、地球の空。
 コロニーで見慣れた空とは明らかに違う、何もない青い空。
 地球に下りてしばらくは、その何もなさに怯えることさえあったのだが、今はもう慣れてきたようにも思う。カミーユが日がな一日眺めているその空は、こうして見れば色々と表情があって面白いものかも知れない。とは思えど、彼が何を思ってこの空を見ているのかはまるで知れず、その心を吸い込んでしまうような青い空は、やはりどこか恐ろしくもあった。

「どうか、なさいましたか?」
 そう声を掛けられて、ファはびくっと肩を震わせた。
「い、いえ、別に」
 荷物を落とさぬよう抱え直してファは答えた。
「いいお天気ですね」
「そうですね。本当に穏やかで」
 教会の庭先を片付けながら、シスターも空を見上げていた。
「どこかで戦争をしているなんて、忘れそうになるくらい」
 その言葉に、ファは荷物を抱える手に力を入れた。
 そうしなければ、自分が崩れてしまいそうな気がしたからだ。
「……ごめんなさい、こんなこと、口にするべきではありませんでしたね」
 ファの異変を見て取ったのか、シスターが柔らかな声で謝意を口にした。
「いえ、良いんです。本当に、そんなお天気なんですから」
 ファは笑顔を作って答えた。


1/6 ◆nextTop機動戦士Ζガンダム