Camille Laboratory Top機動戦士Ζガンダム>創作小説

眠らぬ夜の




In the sea of sleepless night
Camille & Quattro in UC0087
from MOBILE SUIT Z GUNDAM A New Translation
"HEIRS TO THE STARS"




 何もかも、あっという間の出来事だった。
 カミーユにとって、幻かと片付けてしまいたくもなるその出来事は、しかし、冷たい宇宙で起こった現実に他ならなかった。
 昨日まではグリーン・ノア1に住むただのハイスクールの学生だったはずなのに、今は反地球連邦政府組織エゥーゴの戦艦アーガマに身を寄せて、連邦軍内の精鋭部隊ティターンズの追撃を受けている身だ。それもこれも、カミーユがティターンズの兵士とつまらない諍いを起こしてしまって拘束され、エゥーゴの部隊がグリーン・ノア1に侵入したどさくさに紛れて、勢いでガンダムマーク2を強奪してしまったことから始まったのだ。そのことがカミーユの目に両親の死を見せ付けることになるなどとは、彼自身予想できるはずもないことだった。
 あの時はああするしかなかった、それが正しいのだと、思えたはずなのに。
 あれから丸一日も経っていない。なのに全てが夢の中の出来事にさえカミーユには思えた。そう、思いたかった。
 何故俺は今こんなところに居るんだろう。きっと朝になればまたいつもの毎日が戻ってくるんだ。学校へ行って、ファと喧嘩して、空手部で汗を流して、それから……

「んっ……」
 微かな音に気付いて、カミーユは身じろぎをした。いささか薄暗い部屋で、音のした方へ重い頭を振ると、扉から差し込んでくる明かりの中、赤と金の鮮やかな色彩が目に飛び込んできた。ぱちくりと瞬きをして、その人物を認めると、慌てて乱れた前髪をかきあげた。カミーユの見上げた先から、端正な顔を崩さずに、それでもどこか笑みを湛えたクワトロの言葉が降ってきた。
「起こしてしまったようだな、すまなかった」
「いえ、」
 そう答えるそばからカミーユは欠伸を噛み殺した。アーガマのモビルスーツ部隊の指揮官であるクワトロが、何故こんなところに居るのか、カミーユにはしばらくその理由が分からなかった。グリーン・ノア1への侵入部隊の指揮を執っていた赤いモビルスーツ、リック・ディアスのパイロットである彼は、大尉という階級にしては、エゥーゴ内での発言力があるらしかった。カミーユの父は軍属とはいえ技術大尉であったし、軍人の大尉というのがどういったものかは知っているつもりだった。勿論クワトロは実動部隊の隊長であり、エゥーゴのような寄り合い所帯では彼の言葉の重みはあるものと想像はつく。おそらく一年戦争を戦い抜いた経験の持ち主なのだろう、でなければ見た目の年齢と大尉の階級さえ釣り合わない。だがそれだけではない、話し振りといい物腰といい、そして戦場で見せたあの圧倒的な力といい……尉官に甘んじているのが、どこかそぐわないような貫禄を漂わせている人物であるようにカミーユには思えた。

 そのクワトロとアーガマの女性クルーのレコア、そしてティターンズからエゥーゴに転向を表明して、カミーユが両親を亡くした忌まわしい戦場から彼をアーガマに連れ帰ってくれたエマたちと話をしていて、彼らが食事に出て行った後、カミーユは一人でこの部屋に残ったまま、ソファで眠り込んでしまっていたらしい。照明がいくらか落とされているのは、カミーユが眠ってしまったのを知った監視員が配慮してくれたものだが、まだ少し頭がぼうっとしているカミーユはそこまで気付かないでいた。身を起こして座ったまま伸びをしていると、お腹がぐぅと音を立てた。気恥ずかしさに顔をしかめ、頬を微かに赤らめながらお腹を抱えるカミーユに、クワトロはいよいよ控えめながら声を立てて笑った。


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