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The Last Rose
in Summer


Camille in UC0078




1 子供の名前

 梅雨空というのはどうもよくないなとフランクリン・ビダンは思いながら、自分の荷物が出てくるのをぼんやりと待っていた。天候不良のために上空で待たされてしまい、空港に到着したのは予定から二時間遅れ。本来ならばそろそろ自宅に着いていても良い頃なのに、これから地上を移動しなくてはならないと思うと溜め息が出てしまう。実際より重く感じる荷物を持って入国ゲートを出た所で、時計に目をやりながら自宅の電話番号をダイヤルした。
 誰も出ない。
 ヒルダは論文作成が大詰めに入っているからまだ帰宅していないかも知れないが、カミーユなら居るだろうに。梅雨空なのにこんな時間まであの子は一体どこにいるのだろう?
 仕方なく留守番電話相手に帰宅予定を告げて、フランクリンは家路を急ぐ人波に飲まれていった。

 その頃、ニューシート。
 梅雨空って嫌だよなぁと思いながら、カミーユは時計にちら、と目をやった。
 最近は外で遊べないからと、中央図書館まで出かけたのが良くなかった。バスがしっかり遅れてしまい、本当ならもう家についても良い頃なのに、渋滞は何処までも続いている。この分じゃ父さんも遅くなるかな、母さんは帰っていてくれるかな……。遠くで変わった信号に半ばほっとして、またディスクリーダの画面に目を落とした。

 やっとのことでバスを降りて家に向かうと、玄関で待っている人がいる。誰だろう? と思いながら近づくと、相手の方がカミーユを認めて手を振った。
「こんばんは、カミーユ君」
「こんばんは――カレンさん、」
 待っていたのは、ヒルダの後輩のミズサワ・カレンだった。三年程前から出入りしているグライダーのクラブにいる女性ということもあって顔を知ってはいたが、夕闇では一瞬誰だか分からない。にしても――
「どうしたんですか? こんな時間に」
 鍵は開けないで、問う。
「ヒルダ先輩待ってたんだけど、まだみたいね」
「そうみたいですね」
 その答えに、カレンは後ろ手にしていた花束を差し出した。
「これ、先輩にさし上げてね」
「あ、ありがとうございます。」
「じゃね、」
 言うなり、カレンは踵を返した。薔薇と同じ黄色い傘が暗い梅雨空に鮮やかに映るのを見ながら、カミーユは誰もいない家の扉を開けた。


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