Camille Laboratory Top機動戦士Ζガンダム>創作小説

桜の樹の下で


Under the cherry brossom
Camille & Judau in UC0093 : ALTERNATIVE




「春の匂いがする、」
 夕闇に包まれた街角に停車したエレカの傍らに佇んで、カミーユはそんな事を言った。何気なく呟かれた言葉にジュドーが首を巡らせると、彼は穏やかな面差しのまま、風が髪を撫でるに任せている。そうでなくても彼には常に風をまとっているかのような印象があるが、その風に、彼の目には見えないものを教えてもらっているらしい。

 半ば伏せられた彼の瞳には、今は何も見えていない。一月ほど前に彼が光を失って以来、ジュドーは彼の世話を買って出ていた。ジュドーに言わせれば、カミーユの失明の原因は彼にあるからだ。尤もこれをカミーユに言わせると、ジュドーに引き金を引かせたのは自分だということになる。両者共に譲らないままの生活は、互いの心の傷をえぐるばかりではないかと危惧するものもいたが、とりあえずこの一月は穏やかに過ぎていた。
 ジュドーはエレカから降りて、それが待機場に戻っていくのを見遣ると、カミーユに声を掛けてその腕を取った。カミーユが軽くうなづいて、二人は歩き出した。暖かな明かりの漏れるフラットの前で足を止めて、ジュドーがドアホンに話し掛けた。
「ただいまーっ」
 ややあって、応えが返ってくる。
「おかえりなさい。今開けるわ」
 ドアが開いて、ファ・ユイリィが顔を見せた。

 フォン・ブラウン市第1層の静かな住宅街の一角のフラットで、この三人で暮らし始めて丁度一月になる。というより、元々カミーユとファが暮らしていたところへ、カミーユの面倒を見るからといってジュドーが無理矢理転がり込んだというのが正しい。当初二人はジュドーの申し出に戸惑ったのだが、状況を考えるとそれが最善の選択だろうと思い受け入れたものである。
 ファ一人では、失明したカミーユの生活の全てを支えることは困難だと思われた。勿論彼女には、過去の経験からカミーユを支える自信はあったのだけれど、今の彼女は当時とは状況が異なっている――身重なのだ。


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