Camille Laboratory Top機動戦士Ζガンダム>創作小説>桜の樹の下で

 そっと手を離して、一度閉じた目蓋を開けてみる。夜の街では、目の前に居るはずのジュドーの輪郭さえおぼつかない。
「やっぱり、まだ駄目か……」
 ため息をつくカミーユの肩に、あたたかい手が触れた。
「焦るなよ。ゆっくり時間を掛ければ良いんだから。俺だって、ファさんだって、待つのには慣れてる。」
「甘やかすなよ……」
「あんたの良心ってのがそう言ってんだぜ?」
「分かったよ。」
 カミーユの柔らかな笑顔を見ることが出来て良かったと、ジュドーは思った。


「明日さ、出てくよ。」
 肩から手を離して、ジュドーがそう言った。手のぬくもりが消えただけではない寂しさが、風に乗ってカミーユを撫でた。
「え……?」
「部屋さ、目星を付けてあるんだ。いつでも入居できるって聴いてるから、明日行ってみるよ」
「そんな突然、」
「いつ言い出そうかって思ってたとこだしさ、丁度良かったよ。」
「そう……」
 ぽん、とカミーユの肩をたたいてみせて、ジュドーは明るく言った。
「俺が居ることで、無意識のうちにあんたが俺を頼って自分の目で見ようとしないんだったら、それは俺の望みじゃないからな。」
「僕の望みでもないしね。」
 予想通りのカミーユの応えに、ジュドーは笑顔を作った。
「だろ。……送り迎えは今まで通りするしさ、ファさんの様子だって見に来るから。」
「ありがとう、助かるよ。どうせ同じ街に居るんだしね、しばらくは。」
「別の街に居ようと、どこに居ようと、同じことなんだけどな。――木星に居たってさ、」
 ジュドーはそこで言葉を切った。
 彼が何を言おうとしているのか、カミーユには痛いほどよく分かった。たとえ木星と地球圏に離れていても、心はいつでも側にある。言葉で伝えきれないことだって、ぬくもりがそれを伝えてくれる。ジュドーに逢えて本当に良かったと、カミーユは改めてそれを幸せに思った。反面、ここにファを連れてきてなくて良かったという思いもかすめて、密かな痛みも胸に走る。


「ところで、今何時?」
 風も凪いだのに気付いて、カミーユが問い掛けた。
「7時48分ってとこ。」
「まずいな、間に合うかな」
 思案顔で首を巡らせるカミーユの意図が今一つ読めない。
「何が?」
「すぐそこの和菓子屋のさ、桜餅。ファがね、目がないんだよ。」
 ジュドーは軽く肩を落として、ぼそりとつぶやいた。
「……結局、カミーユはファさんには甘いんだから。」
「いけないか?」
「全然。」
 自分は甘えちゃいけないって散々言ってたくせにさ、とは言わないでおいて、ジュドーはカミーユの腕を取った。

「お店って8時まで?」
「そうなんだよ、でもまだ品物があればの話だけどね。」
「とりあえず行ってみるしかないだろ、なければまた他を当たればいいじゃん」
 できるだけの急ぎ足で山門へ向いながら、カミーユは考え込んだ。
「そうだな、次善策はあそこの洋菓子屋か……」
「俺、ケーキ食べたいなぁ。」
 ジュドーが何気ないように装って言ったのに、カミーユは苦笑した。
「分かったよ、和菓子屋がどうでも洋菓子屋にも寄ろう。」
「やったね!ねね、そこ何が美味しいの?」
「まずは桜餅。」
「はいはい。」
 ぴしゃりとしたカミーユの物言いに、ジュドーは片手を揚げて降参した。

 山門を出たところで寺を振り返る。また吹いてきた風に桜の花びらが舞っているのが目に浮かぶ。追憶の季節はもう終わる、夜が明けたらまた新しい季節が始まるのだと、カミーユは自分に言い聞かせていた。


(0103.28)



あとがき

 なんかみょーに甘い話になりましたが〜いつも以上にオリジナル設定というかそのものパラレルなんですが、その上、カミーユの失明の理由を一切書かないまま進めたので、ちょいとそのあたり歯切れが悪いかもですね(_o_) ちゃんと設定はあるんですが、これまた難物なお話なんで。年表作った折に年号入ってしまったんで、そこからご想像ください〜。年表は出版課の書庫においてあります。

 〜とかいう話よりも、読む人が読めばいくらでも曲解可能ということの方が問題かもしれません(^^; 本人はアニメ本編のイメージからあまり逸脱してはいないと思っているんですが〜書き手の意図はあくまでもそういうものとしてご了解ください。んが、どうお読みになるかは読む方の自由ですので、いくらでも曲解してください(笑)←ぉぃ


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