Camille Laboratory Top機動戦士Ζガンダム>創作小説

空の日



Sky Day
Camille's First Sky




「父さん、母さん、早くぅ!」
 秋晴れの空の下、転びそうな勢いで男の子が草原を駆けてゆく。案の定、草に足を取られながらも、懸命にバランスを取り直してその子が目指す先には、青空に映える白いグライダーが風を待っていた。

「そんなに急いでもグライダーは逃げないよ、カミーユ……と言っても、聞こえていないな」
「昨夜もなかなか寝つかなかったのよ。行きがけの車の中で欠伸をかみ殺していたわ……グライダーなんかに乗せて、大丈夫なの?」
 今回の話を持ち出した夫を少し睨むようにヒルダは詰問した。母親としては、年端も行かない一人息子が心配でならないのだ。初飛行を黙って見守るには、彼女は母親としての経験がなさすぎたのだ。そんな彼女の気持ちを知ってか知らずにか、フランクリンは気楽そうに言葉を口にした。
「乗せてくれるのはヒカルだよ。大丈夫さ」
「私が心配なのはそんなことじゃ……」
 突き刺さるような彼女の言葉を背に受けて、フランクリンは馴染みの顔が手を振るのに応えていた。ヘルメットの代わりに男の子を抱えて、人懐っこそうな笑顔が秋の風に吹かれていた。

「すまないなヒカル、早速お荷物を抱えさせてしまって」
「とんでもない、お荷物だなんて……こんな可愛い子なら大歓迎ですよ。なぁ、カミーユ」
 大人たちの会話をきょとんとした顔で聞いていたその子は、少し不安気な顔を向けていたが、頭を撫でられて笑顔を取り戻していた。そしてその手が自分の体を地面に下ろすと、辺りを見回してグライダーの方に走っていった。

「あんまり近づくと危ないわよ!」
「男の子というのはあんなもんですよ。……大丈夫、可愛いお子さんに怪我などさせませんよ。では」
「じゃあよろしくな、ヒカル」
 フランクリンに崩した敬礼を見せて、ヒカルはヘルメットを片手に、グライダーへと駆けていった。白い機体の回りでは、既にあの子がアイドルになっている。その中心がこちらを見とがめて、勢い良く手を振った。


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