report
REPORT TOP



《RELAX》番外公演 ハミングバード・トラップ
《RELAX》/0309.02-05/六行会ホール@新馬場/作・演出:EMI

■キャスト
 サルバドール・ロッコ(強盗殺人の容疑者):飛田展男
 ルイ・リンゼッティー(強盗殺人の容疑者):ZATO
 フランク・アダムズ(弁護士):津曲健仁
 グレース・ハザード(検事):おぉじのりこ
 ビル・ベイリー(証人・刑事):中田篤
 チャールズ・ホートン(証人・床屋の店員):南部哲也
 ミリアム・ロジャース(証人・アパートの大家):斎藤あんり
 マリア・ジョーダン(ウェイトレス):澤崎あけみ
 マックス・ブライアント(食堂の店員):斎藤崇
 マリア・ブラウン:田中美穂
 ママ・ロッコ:斎藤あんり
 判事:岡本嘉子
 法廷書記1:斎藤崇
 法廷書記2:南部哲也
 オール・アンドルソン:戸部公爾
 陪審員長(声の出演):清水スミカ

■おはなし
 強盗殺人事件の容疑者とされたロッコとルイ。検察に勝てないと思ったルイは自分がやったと言ってしまう。ルイは無実の罪を着せられたのだ、ハミングを口にする男によって。ルイは弁護士に、何年掛かってでも自分の無実を証明して欲しいと告げる。
 ルイの死刑が執行され、彼の遺品を受け取ったロッコの胸中に蘇る思い。ロッコは先の事件の実行犯であるアンドルソンにニ幕目の筋書きを告げる。
 マリアと名乗る女性がロッコに母の元へ帰るよう頼みに来る。しかしその日は、アンドルソンが第二の殺人を犯した日となった。その事件の裁判の証人となったマリアは、ロッコとアンドルソンのアリバイを証言し、二人は無罪となった。
 閉廷後ロッコは二回とも自分が関わったと告白する。そしてこれは復讐であり、殺人事件を起こそうとも、自分だけは裁判で無罪を勝ち取るゲームなのだと。そしてそこにマリアが現れ、この二人はもう罪を犯せないという。次に罪を犯せば今回の犯罪を告発すると。無罪という最も重い罪、誰にも罰せられず、許されることもないまま生きるしかないのだと。マリアはロッコに母の元へ帰るよう諭す。母の口ずさむあの歌に抱かれて、ロッコは何を思うのか。


■感想
 《RELAX》10周年ということで、《RELAX》以前のEHC時代の演目の再演なのですが、最近の舞台に比べるとお話が分かりやすいというか、練られているけれどもシンプルなもので、《RELAX》入門編にはよいかなぁという感じ。いえ最近のは最近のでほんとよく出来てて、ちゃんと笑える部分もあって良いんですけどね。今回のはマリア・ジョーダン、マックス、ルイってあたりでちょろっとくすくす、という程度で全体的に重いトーンなので(そりゃ2回も殺人事件が起こってればなー)。

 何せわたしが初めて飛田さんの舞台を見るはずだったのが、EHCの「ハミングバード・トラップ〜Revenge〜」でした。見逃したのが惜しくて悔しくて、なので今回の再演は本当に嬉しかったです。因みに飛田さんと戸部さんの配役は初演から変わっていないそうです。

 しかしまー、ほんとこれ原点なんだなと。ここからあっちへ行ったりそっちへ行ったりとその後展開していくんだなーというのがよく分かったので、常連にはそういう楽しみもあったような。これをやってしまうと、戸部さんにお伺いしたことではあるんですが、次の再演は「ペナルティー・マリア」しかないような気がするんですよ、やはり。――そういえばあの演目での死刑囚も「マリア・ブラウン」なんですね。

 何と申しますか、無罪より重い罪というのが。現実問題として、附属池田小の事件で「死刑廃止を言う人は、死刑を求める人の気持ちを分かっていない」とかって犠牲になった子の親御さんのコメントがあったと思うんですが、あの事件の場合は「ペナルティー・マリア」に近いんですが、本人死刑を求めてるってのがね。何の反省もなくて。殺せと。それってどうなの? という疑問もなくはないんです。でも多分分かってないんだろうな。殴られた痛みは殴られないと分からないんです。それは間違いなく。でも、何故殴るのか、殴られるとはどういうことか。考えることにも意味はあるのだろうと。

 細かい所。ルイとロッコのスペイン語の会話、台本は日本語なんですがこれだとネタバレになってるんですね。飛田さんにお伺いしたらテープに吹き込んでもらったのを聞いたとのこと。ルイが自分を勝利者だと言う、その台詞が悲しく。法廷での刑事の証言と、再現される事件当日の刑事の言葉から受ける印象の違い。余所者に対する反感というのは日本でもその辺に転がってる感情ではあるんですが、大体そちらのお国ってのは移民の国で、刑事さんだって何代前かは余所者でしょうが。元々の住民が迫害された歴史があるって認識しとるんかね? と本筋と関係ない所に突っ込んでみたり。

 マリア・ジョーダンとルイの微笑ましさ。これが数時間後に奈落の底へ落とされると分かっているだけにその落差が辛い。いやまほんと、ロッコというのはこれまでの飛田さんの演じられた中でも下から数えた方が早いくらい黒いんじゃなかろうか。彼をそこまで追い詰めたものの重さは想像を絶するが、現実に起こっている事件を振り返るに、そういうものなのかも知れないとも考えたり。アンドルソンは分かりやすいんだが、ロッコの不注意でゲームの駒であったことがアンドルソンに知られてしまい、彼もロッコの元を去る。二重三重に芝居を要求されるロッコという役柄、しかし一人になって、母の前では彼は芝居をしなくていいはずで。過去を捨てたいはずのロッコが、何故母の口ずさむ歌を忘れないのか。お歌はソロもあって良かったですよーと、この反応はただのトビタスキー。

 あとやっぱりあの子猫のシーン。ぽきっというあの音が恐い恐い。紙袋の中に入れた手と音だけであんなに恐いんですよ。観客の想像力を利用する演出って良いよなぁと思うんです。大人の芝居なんだなーと。帽子を被ったロッコはライトの加減によっては表情が伺えなかったり、観客席に背を向けたりと、これも行間とか余白を読ませる演出で。

 読ませるといえばマリア・ブラウンの喪服。彼女が弔意を示す可能性があるのは、ママ・ロッコ……はないよな、となるとアンドルソンに殺された女性かと。握り締めたハンカチは、あの夜に拾ったもの。これを握り締めて証言をしたマリアの覚悟。「お母様の元へ帰りましょう」とロッコに告げるマリアは、ロッコを死刑にしてママ・ロッコが悲しむことが辛かったのか。ママの息子であるロッコに、生きることでその罪を償って欲しかったのか。

 この事件の後、自分の信じたものが崩れてしまった弁護士の老いた姿に繋がるのかと思えば、2回見られて良かったなと。サリーさんにしては一番の老け役だったと思うのですが、どちらも味があって良かったです。おひげそろっと触らせて貰ってしまいましたが(^^*

■うらばなし
 ……というほどのものでもありませんが、先のスペイン語の台詞のお話を伺ったとき、「高知弁と同じですよ」と口にされた飛田さん。丁度「海がきこえる」DVDが出たばかりなので、あれも10年前ですねと懐かしがったり。東西で言葉が違うのでやはり色々ご苦労があったようです。高知弁の台詞にはイントネーションの指示がついていたそうです。

 前回の「イエローD」の挿入歌のCDが販売されて、初日に何とかげっと。劇中で使われたミラ・ホワイト&ビューティ・パレットによるものと、そのインストゥルメンタル、そしてラフィー・レッドフォードのバラード版が入っていて、この戸部さんの甘い声の素敵なことっ。今回もそうですけど結構挿入歌とかあるんで、まとめて欲しいなーとも思います。


REPORT menu
REPORT TOP