Camille Laboratory Top機動新世紀ガンダムX>創作小説>光の十字架

 『フォートセバーンの赤い夜』当日から、パトゥリアのシステムに組み込まれていた影響を払拭するのに、カリスはフリーデンのドクター・テクスの治療を受けていた。テクスの治療は功を奏して、カリスは二日目の昼には体を起こせるようになっていた。見舞いに来たフリーデンのキャプテン・ジャミルに、カリスはある依頼をした。
『ビットのコントロールシステムを撤去して欲しい?』
 カリスの申し出に、ジャミルは訝るような声をあげた。しかし思うところがあるのかカリスにうなづいてみせると、二人が話をしていた医務室にメカニックチーフのキッドを呼び寄せた。
『となると……通常兵装じゃ心許ないな。いじっても良いか?』
 修理用に取得したデータを手元で見直しながらキッドは言った。後半、声が弾んでいるのが彼らしいと知って、カリスは笑顔で答えた。
『構いませんよキッド。お願いします。……本当は、皆さんに完全にお預けしてしまおうかとも思ったのですが』
 それでもこの機体を手放す訳にはいかない事情を汲んで、ジャミルは真摯に答えた。
『分かった。改修が済んだら届ける事にしよう』
『感謝します。』
 カリスは、ジャミルの声音に滲んだ思いに、心のどこかが共鳴しているのを感じていた。

「僕は、生き抜いてみせる。」
 カリスはそう自分に言い聞かせると、自衛部隊の格納庫を後にした。

 そんなカリスの元に、ひょんな来客が訪れた。そのバルチャーは、グリーツ・ジョーと名乗った。
「君のことはジャミルさんから聞いている」
「御存知なのですか?」
 懐かしい名前に、カリスは目を丸くした。
「まぁな、近くに寄ったら様子を見て来てくれないかと頼まれてな」
「そうですか。フリーデンの皆さんには本当にお世話になりましたから」
 しかし彼は偶然フォートセバーン市の近くに寄ったのではなかった。彼は今、北米大陸における反連邦政府組織に参加していて、カリスをスカウトしに来たというのである。
「新連邦に対抗するには、バラバラに場当たり的なことをしていても駄目だ。それでも力を合わせたら――というのは、この土地の人間が一番知っていることだろう」
「それは、そうです。ですがだからこそ――」
 実際、カリス率いるフォートセバーン自衛部隊を中心とした北方地域では、新連邦を撃退したという情報が広まってからは、新連邦もあまり手を出して来ていない。わずか十五歳の少年に、十五年前の戦争を知っている新連邦の軍人が手をこまねいているのである。今カリスがこの地を離れたらどうなるのか、カリスが不安に思うのも無理はない。
「隊長、留守は任せてくださいよ。自衛部隊も人員が増えてますし、イキの良いのを何人か連れて行って貰ってもこちらは大丈夫ですよ」
 同席して話を聞いていたノルドがカリスに言った。カリスの帰還以来、それ以前にも増してノルドはカリスの良い片腕となってくれていた。
「ありがとう、ノルド。」
「ま、今晩はゆっくり考えてくれ。また明日にでも返事を聞きにくる」
 グリーツはそう言って席を立った。
「はい、」
「じゃあ――おっと忘れる所だった。これを預かっていたんだ」
 言って、グリーツはカリスに封筒を手渡した。フリーデンクルーからの手紙である。
「ありがとうございます」
「その後ジャミルさんとは連絡が取れないんだがな」
「北米には居ないのかも知れませんね」
 カリスは封筒で顎をつつきながら答えた。グリーツがへぇ、と目を丸くする。
「どうして分かるんだ?」
 カリスは笑みにも似た表情を浮かべると、北国の空を窓越しに眺めた。
「彼らもきっと新連邦と戦っているでしょう。だとしたら――言葉は良くはありませんが、騒ぎの最中に彼らは居るのでしょうから」
「海の向こうの噂、か。」
 新連邦樹立宣言と時を同じくした頃、海に亡霊が現れたという話が遠くから伝わって来た。その正体が何なのかは分からないが、ここまで伝わる噂話に彼らが関っている可能性は高い。


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