Camille Laboratory Top機動新世紀ガンダムX>創作小説>ガロードに愛のくちづけを

「なぁティファ、あの口紅――」
 そう口にしたとたん、ティファははっと目を見開いて口許を押さえてしまった。長い睫に縁取られた瞳が微かに動揺しているのが見て取れる。何か気まずい時間が流れ、ガロードが謝ろうと口を開きかけた時、ティファがようやく言葉を口にした。
「わたし……」
 その瞳はまるで濡れているようで、ガロードは居たたまれない気分で胸が締め付けられそうになった。ぶんぶんと首を振って、彼はつとめて明るい声を出した。
「ごめん、食事邪魔しちゃったよな。終わった頃また来るからさ、ちゃんと食べなよ。じゃ、」
 後ろ手にドアを閉めて、ガロードは大きく息をついた。

 食堂に戻って、今度は自分の食事を手にしたガロードは、食堂を見渡してある人影に目を留めた。サラとトニヤである。この二人はいつもちゃんと口紅を付けている。ということは、容疑者、ではある。
『とはいえ、この二人じゃあないと思うんだけどなぁ……まいっか、何か分かるかも』
 ガロードはそんな言葉を頭の中に並べて、何気に二人の席に近づいた。
「おはよっ、サラ、トニヤ。元気?」
「おはようガロード。どうしたの?」
「おはよー。何の風の吹き回しぃ?」
 案の定、二人はガロードの行動を普通と取ってはくれないらしい。

「どうでもいいじゃん、ここ、良いよね?」
 回答を聞くまでもなくどっかと座ったガロードに、二人は顔を見合わせた。サラが口を開く。
「良いけど……ティファがどうかしたの?」
 単刀直入な物言いに、ガロードはややコケながらも、まずは食事に口をつけて応えた。
「いきなり本題かぁ……参ったなぁ」
「あんたが私たちに用だなんて、ティファ絡みくらいっきゃないじゃない」
「ま、話が通じて良いってもんかなぁ。実はさ、昨晩なんだけど……」
 そうして途中途中でしっかり朝食をとりながら、ガロードは昨晩の出来事をかいつまんで説明した。話が終わると、サラはくすりと吹き出した。
「夢でも見たんじゃないの?」
「夢は見てたって言ったじゃん。問題は、ほんとに、その、キスマークが頬についてたってことなんだよ」
「えー?だれだれー?誰がそんなことすんのよーっ」
 トニヤのからかうような口振りに、ガロードは多少かちんと来た。
「シンゴに聞いてみてくれよ、事実なんだから」
「分かったわよぉ。でもほんと、誰かしらね〜そんな物好き」
 サラはそんなトニヤに肩をすくめて、ガロードに向き直った。
「ティファには聞いてみたの?」
「それがさ……うまく聞き出せなかったんだ。」
 うつむき加減に応えるガロードに、トニヤはさも呆れたというような声を出した。
「じゃあやっぱりティファなんじゃーん。」
「いや、ティファは、違うと思うんだ」
 ガロードの目は真面目だった。トニヤはちょっとムキになった。
「どうしてよ?大体あんたにキスしようだなんて、ティファ以外に誰が居るのよ?」
「そうなんだけど、違うって思ったんだ。」
「良いじゃない、トニヤ。ガロードが違うって言うんだから。でも、私たちじゃないわよ。ね?」
「そうそう。他、あたりなさいよね」
 サラとトニヤに良いようにあしらわれて、食事も済んだガロードは、食堂を後にした。

「あれ……?居ないのか、」
 ティファの部屋を尋ねると、彼女は部屋を留守にしていた。自分でトレイを返しに行ったのか、トレイも見当たらない。ドアを閉めようとしたその隙間、ちらとリップスティックを探して目線をやるが、それすらも見当たらない。ガロードは首を傾げながら、ティファの部屋を辞した。

 さて、どうするか――考えあぐねていても仕方ないし、ふらふらしていてはまた誰からどやされるか分からない。ジャミルからはティファの世話を言い渡されていたとしても、肝心のティファが居ないのだから、とりあえず思い付いた先――モビルスーツデッキへと降りる事にした。


back ◆ 3/7 ◆nextTop機動新世紀ガンダムX