「確かに、俺はそれなりに場数は踏んでいるさ。でもそれは、あくまで俺のやり方だろ? お前がその通りにしたって意味のないことじゃない。ガンダムだって同じ事でしょうが? お前にはお前の戦い方がある、女の子も同じ事」
「ガンダムと一緒にするかよそこで〜」
ガロードは頭を抱えたが、確かにロアビィの言う事にも一理ある。
長身で細面で、フェミニストで、そのくせ愛機はガンダムレオパルド。大人は大人らしく仕事はクールにこなすのが身上で、彼を厭う女の子など見たことはない。それがロアビィだった。
翻って、自分はまだチビだし、顔は可も不可もなく、GXはいいモビルスーツだけど、別にそれが自分の魅力だとは思わない。ティファのためなら命がけ、他の女の子のことって……なんか妙なお姉さんに追いかけられたことはあるけど……まず目には入らない。ガロード・ラン、まだまだ発展途上の十五歳。ロアビィと同列に語るには余りにも違いすぎた。
「お前は、そもそもどうしようと思ってたんだ? セインズアイランド、ティファと一緒に上陸するんだろ?」
「そのつもりだけど、デートなんてしたことないから、何をどうすれば良いのかさっぱり分からなくて。だからロアビィに聞いてんじゃん」
むくれるガロードに、ロアビィは口の端で笑って肩を叩いた。
「まずは自分で考えな。ティファがどうして欲しいと思ってるのか、何をしてあげれば喜んで貰えるのか。それが一番分かるのは、誰でもない、ティファの一番近くに居るお前のはずじゃない」
「そうか……」
セインズアイランドがどういうところか、クルーの会話の断片から、勝手な想像を巡らせてでもいたのだろうか。まずデートありき、と考えてしまって、そこから先へ進まなくなったのだ。何処へ行くか、何をするか。何時頃食事をして、それから……そんなことはどうでもいいのだ、多分。ティファと一緒に南の島の休日を過ごすこと。ティファも自分も、初めての土地で、初めての空を見ること。それで良いんだ、とガロードはやっと思えて、こくんと頷いた。
「どうしたら良いか、分かったみたいだな」
「こうなったら当たって砕けろ、かな。今まで通り、ガンダムと同じ事!」
元気を取り戻したらしいガロードの声に、ロアビィは軽く頭を抱えた。
「なぁお前、相談相手間違えたんじゃないか? ウィッツに聞いた方が早かったかも知れないぞ」
「そうかなぁ?」
女の子の話とウィッツとがどうしても結びつかず、ガロードは首を捻った。
「なーにやってんだ、お前ら」
いつからそこにいたのか、ウイッツが二人を覗き込んでいた。
「いやっその。えっと……」
「デートの心得を聞きたいんだと」
うろたえるガロードを尻目に、ロアビィがあっさりと暴露した。ウィッツは、ははぁんと分かった顔をして、ガロードにニヤリと笑いかけた。
「でぇとぉ? んなもん、簡単じゃねぇか」
「ご高説、賜りましょう?」
面白そうにけしかけるロアビィに頷いて見せて、ウィッツはガロードの眼前で拳を握り締めた。
「当たって砕けろ、だ!」
そのウィッツの答えに、ガロードとロアビィは言葉を失った。
「あちゃぁ……」
「な? やっぱり、ウィッツに聞いた方が早かっただろ?」
「そうかも。」
こそこそと話す二人に、ウィッツが訝しげな目を向ける。
「はぁ? 何の話だ?」
「何でもないって」
ぶんぶんと手を振って誤魔化して、ガロードは笑った。
「随分調子が良いみたいだな。海は、気に入ったのかな?」
医務室の片付けの手伝いをしているティファに、テクスが声を掛けた。
「はい。見ていると、飽きなくて」
「そうだろうな」
「でも、皆、早く上陸したいって」
「それは仕方ないことだろう。こうずっと海の上ではね。陸の上を歩きたい、街を見たい。クルー以外の、知らない人に会ってみたい。そう思うのは、自然なことだ」
「そうですか……」
戸棚をパタンと閉めて、ティファはテクスの方を向いた。
「終わりました」
「そうか、ありがとう。今日はもう良いよ」
「はい」
軽く会釈して、ティファは医務室の扉に手を掛けた。その背中に、テクスの声が届く。
「セインズアイランドについたら、街へ行ってみるといい」
「え?」
振り向いた瞳は軽く見開いて、年嵩の医師の微笑を受け止めた。
「ガロードが連れて行ってくれるんだろう? 行っておいで」
「はい」
テクスに頷いて、ティファは医務室を出て行った。
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