Camille Laboratory Top機動新世紀ガンダムX>創作小説>言葉なき恋歌


  巷に雨の降るごとく
  我が心にも雨ぞ降る


 確かにこれは感傷的な詩だ。しかし、底知れぬ喪失感をある意味満たそうとするかのような雨というものは、時代を越えて町に降るものなのかも知れないとも思えた。この雨は彼女のための涙であり、そして、土に返った数多の人々の上に降り注ぐ涙でもあった。いつしか静かな雨音の中に、微かな嗚咽が混じるのを聞き、テクスは傍らを振り向いた。
「何で……お前が泣くんだ?」
 ぽろぽろと涙を流して、ジャミルは確かに泣いていた。これほどの感情の発露は滅多にない。咄嗟に少年の震える肩を掴み、そしてその小さな体を抱きしめた。
「やはり彼女が亡くなって悲しいのか? ――それとも、お前が代わりに泣いてくれるのか?」
 その問いには答える様子もなく、ただジャミルは泣き続けていた。


  この上もなき痛みのあるは
  その故の知らざればこそ
  愛もなくまた憎しみもなく
  我が心ただ悲しみに満つ


 その涙の理由は、ジャミルには本当に分からないのだろう。やはりジャミルも悲しいのか、泣くにも泣けないでいるテクスの代わりの涙なのか、或いは、彼自身の喪失感が途方もないものであるが故の涙なのだろうか。

 静かな雨音の中、微かにむせび泣く声は続いていた。そこに言葉がなくとも、少年の心には人恋しい想いがあることは確かだとも思えた。
「止まない雨はないと言うからな」
 テクスはそうひとりごちて、雨に濡れて乾ききらないでいる少年の髪をそっと撫でた。

by かすみきりこ


(0408.13)



あとがき

 GX屈指の名エピソード、第九話「巷に雨の降るごとく」。この作中での「我が心にも雨ぞ降る」という訳が大好きなもので、ヴェルレーヌの詩の既存の訳は使えず、自分で訳してみました。尤もフランス語の原文からは難しかったので、英語訳とか既存の訳を並べつつの作業でしたが、それでもフランス語を半年で挫折した身には難しかったです。 「Quoi! nulle trahison?...」 がさっぱり分からず、方々見比べても解釈は揺れているんですねぇ。ほぼ直訳で乗り切りましたが、如何でしょうか。第九話での「ランボーの詩だったか?」「いや、ヴェルレーヌだ」というあたりの話は「つっこみ:で、船出編って。」でもちょろっと書きましたが、まぁこういう感じで混同したんじゃないかなとか。

 で、「巷に雨の降るごとく」なので雨を降らせてますが、そもそもAW0002くらいじゃまだ雨じゃなくて雪になるんじゃ……という気もしますが(^x^; ま、そのあたりは本来夏だったからとか大目に見てやってくださいまし。金髪の彼女の境遇にしても、あの世界ではもっと厳しい話なんていくらでもあると思うんですが。というあたりも含め、全体的にちょっと重い話になってしまって、却って本編と繋がらなくなったような……それ以前に医者甘すぎって感じで。

 で! またしても、かすみきりこさんからイラスト頂いてしまいました。テクスとジャミルですよ。雨の匂いとコーヒーの香り、そして雨に冷える空気の中のぬくもりが感じられる絵ですよ。ほんとありがとうございました(^^) 折角大きいサイズで頂いたのにこんなに縮小しちゃってごめんなさいですー(i_i)

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