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 それから、スルガは転戦を繰り返した。ジオン軍の抵抗は、彼我の国力の差を思い知らせるものだった。ジムの量産に成功した連邦軍の前にあって、ジオン軍の防衛ラインはじりじりと後退していった。そんな戦いは、ジャックには良い訓練になった。

 しかし、ソロモンは違った。文字通りの総力戦となり、ここでソロモンを落とせなければ戦争はさらに長期化するのが目に見えていた。噂に聞く第十三独立部隊の参戦もあり、連邦軍はソロモンを手中にした。しかし、ジャックは部下を失った。

『少尉殿、あとは頼みます!』
 小隊のまとめ役として活躍してくれていたハロルド曹長が、帰らぬひととなった。しかも、ジャックの窮地を救ってのことだった。
『ハロルド曹長ーっ!』
 自分を庇ってハロルド曹長が死んだ。光の中に消えていく彼の姿が目に見えるようで、その光景が頭の中に焼き付いて離れなかった。呆然とするジャックに、アダム軍曹の怒声が殴り付けるように響いた。
『ハロルドの分まで生き延びるのが少尉殿の任務でしょう!』
『そう……だ、生き延びなければ……キョウイチ伍長は?』
 頭を振って、ジャックは今一人の部下を探した。
『生きてます!』
『よし、戦況は収束しつつあるようだ、スルガへ帰還する!』
 顔を上げたジャックの眼前で、スルガの発光信号が帰還命令を告げていた。

 帰還したジャック・ザ・ハロウィン隊には、艦長代理であるヘンケン・ベッケナー少佐からの戦時特例による辞令が手渡された。ハロルド・レーマンは特進により中尉任命、ならびにアダム・スティングレイは曹長へ昇進となった。
「よろしく頼む、」
「はっ。」
 ヘンケン少佐に敬礼を返し、アダム曹長は艦長室を辞した。ハロルドの抜けた穴は、大きいと知れた。責務は、重かった。

 ジャックは、密かに不安を抱えていた。ハロルドは実直を絵に描いたような男で、父の部下だったこともあるだけに、自分の様な人間の扱いには長けている部分があった。彼の陰に隠れて、アダム曹長とは直にはあまり接する機会がなかった。ジャック・ザ・ハロウィン隊は文字どおりハロルドを要にしていた。これから最終決戦へ向けて戦局は緊張の極を迎える。ハロルドを失った自分に、小隊をまとめていけるものか……彼は何度目かのため息をついた。

「どうぞ、」
 ノックの音に答えると、姿を見せたのはアダム曹長だった。日記をそれとなく隠して、ジャックはアダムに椅子をすすめた。アダムは一礼して椅子に腰掛けると、何も言わずにジャックを見つめていた。
「何か、用があったんじゃなかったのか? ――曹長。」
「いえ。」
 アダムは短く応えた。沈黙を嫌って、ジャックは口を開いた。
「曹長とは――こうしてゆっくり話す機会もなかったな。」
「話をしに来た訳ではありません。」
「なら何をしに来た?」
 さすがに、ジャックも声を荒げた。自分でも、驚いていた。
「珍しい声ですな? 少尉殿には似つかわしくもない。」
「なら、何だと言うんだ」
 アダムは一呼吸置くと、ジャックの目を見据えた。
「戦場で人の生き死になど当たり前のことです。初めて部下を失った動揺は察しますが、今までが何も無さ過ぎただけのこと。星一号作戦の最終段階も近いんです、早めに立ち直って頂かなくては隊の士気に関わります。それだけです。」
 言うと、アダムは腰を上げた。目礼して去ろうとするのを、ジャックは呼び止めた。
「ちょっと待ってくれ。君は――曹長は、ハロルドが死んだのは当たり前のことだと言うのか?」
「そう申し上げましたが?」
 試すような瞳が、ジャックを射抜いていた。一旦目を逸らして、ともかくもアダムに向き直って口を開いてみせた。
「それは、それは分からなくもないが……ハロルドが死んだのは、俺のせいなんだぞ? 俺が未熟なばかりに、俺を庇って、俺さえしっかりしていれば、ハロルドは死なずに済んだはずなんだ、俺が――」
 思いがけず、言葉が暴走していた。ジャックは継ぐべき言葉を失って、うな垂れるしかなかった。


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