「上の方の政治的判断というやつらしい。ソロモンにシャトルで着いた民間人を移送するのが我々の任務だ。」
「星一号作戦の最終局面――ア・バオア・クーがすぐそこなんですよ?」
噛み付くジャックにヘンケンが目線をあげるのを見てとって、アダムが小さく言った。
「少尉殿、」
くっと堪えて、ジャックは姿勢を正した。
「命令とあらばお受けいたします。」
「結構。――ま、民間人を守ってこその軍人だ、名誉な任務と思え。」
「はっ。」
殊勝に敬礼してみせるジャックに、ヘンケンは苦笑した。
「血気にはやるのもわかるがな、少尉。ア・バオア・クーの近くに寄るのには違いない。スルガもどうなるか分からん。しっかり頼むぞ。」
アダムは思わず身を乗り出した。
「……民間人を守りながらの戦闘になりかねないと?」
「そういうことだ。」
二人は、改めて目を見合わせた。
「ジャック・ザ・ハロウィン隊には期待している。常に不測の事態に対応できるようにしておいてくれ給え。」
「了解しました。」
「よし、下がってくれ。出港までは待機。休める時に休んでおいてくれよ。」
「……って言われたからって、こんなことしてて良いのかなぁ。」
ソロモンの一角で、スプレー缶を振る手を止めて、ジャックは渋い顔をした。 「整備も一段落ついてんです、皆やってますぜ」
アダムがニヤリと笑うと妙な凄みがある。それをよそに、キョウイチは嬉々としてジャック達の方を振り向いた。
「出来ましたぜっ」
「へぇ……」
キョウイチは、自分の作品――とはいえ所詮は落書きなのだが――を指した。
『GM IS GREAT MS!』
「良いじゃないか伍長。でも俺なら、こうするな。」
ジャックは自分が手にしたスプレー缶で、文字を書き足した。
『GM IS THE GREATEST MS!』
どうだい? と言わんばかりにジャックが振り向いた。アダムがまず笑い出し、キョウイチもつられ、最後にはジャックも笑い出した。
『GMなんて所詮はGundaMの略でしかないのさ』
『いーやあれはGundam Modokiなんだよ!』
ジムに乗れなかったパイロットは、口さがなくそんなことを言う。
確かにガンダムはエライかも知れない。あれがなくてはジムはない。しかし、実際に戦局を動かしたのはやはりジムなのだ。
『GMってのは、Great Msのことなんだぜ!』
キョウイチはそう書いた。
『GMってのは、一番エライMSのことなんだよ!』
ジャックはそう書き直した。
ジム乗りであることに、三人は――いや、全てのジムのパイロットは、誇りを持っていた。それもまた確かなことだった。
スルガは、民間人を載せてソロモンを出港した。戦場を避けるように安全宙域を選んで航行するはずであったが、ア・バオア・クーを目前にして状況が一変した。
ジオン軍が、ソーラ・レイを使ったのである。
先に連邦軍が使ったソーラ・システムとは似て異なり、ジオン軍のものは自国の密閉型コロニーを丸ごと使ってレーザー砲にするというものであった。これにより、レビル艦隊は壊滅し、連邦軍は艦隊の建て直しに奔走した。かといってジオン軍が優勢になったという訳でもなく、両軍の配置は混乱を極めた。
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