『キョウイチ伍長、4号ランチを頼む。自分は少尉殿と3号ランチにつく。』
『了解しました。』
「おい……大丈夫だな、キョウイチ伍長?」
アダムに先を越されて、ジャックは面目なくキョウイチに尋ねた。
『お任せください。曹長、少尉殿を頼みますよ』
「おいおい……」
これではますます面目がない。アダムのくすりと笑う声がして、接触回線特有のくぐもった声が聞こえた。
『4号ランチのパイロットは、キョウイチの旧友なんですよ。』
「あぁ……そういう事か。無事で居られると良いな。」
『無事で居るんでしょ? 少尉殿。』
「そうだな、アダム曹長。」
ジャックは一瞬ほっと顔をほころばせた。そして、ついに来るべきものが来た。
『ランチ発進準備よし。各モビルスーツ隊順次発進せよ!』
「3号ランチ! 状況はどうか?」
発進した途端様子のおかしいランチに、ジャックは問い掛けた。
『エンジンがやられてる! 曳航を頼む! ……ちっ、モニタまでやられた!』 やはり曹長と二機体制にしていて良かった。そうジャックは思った。
「キョウイチ伍長、そっちは大丈夫か?」
『問題ありません! どうぞご無事で!』
「あぁ!」
短いやり取りをすませ、ふと後方を振り向くと、そこには思いがけない光景があった。
「スルガが……!」
たった今まで母艦としていた艦が、爆発に飲まれていた。くっと堪えて前方に振り向き直す、そこにスルガを沈めた黄色い悪魔の姿があった。そしてその禍禍しい鎌先が、よりにもよって3号ランチに取り付いた。
「こいつーっ!」
ジャックが動くより先に、アダム曹長のジムが果敢に立ち向かっていった。黄色いモビルアーマーは、曹長のジムに仕留められ、くるくると回転しながら後方へ流れていった。
「何だ、今のは……」
ジャックは息をつくと、頭を切り替えた。
スルガを発進してすぐ戦闘に巻き込まれるという緊迫した状況に、ランチの民間人の不安も頂点に達していることと思われた。ジャックは、ランチのキャビンへの回線を開いた。
「皆さん、我々が皆さんのランチの護衛にあたります。わたしはジャック・ベアード少尉です。どうか安心して、落着いていてください。」
そう告げる声で、自分も落着くよう言い聞かせた。バイザー越しではあったが、ジャックの整った面差しと品の良い声音に、落ち着いた民間人も少なくはなかった。
『少尉殿、行きますよ!』
アダム曹長が言い、二機のジムは3号ランチを曳航して発進した。
現在地の確認をし直すと、先刻のモビルアーマーをやり過ごしたせいで、本来のコースからかなりずれていることが分かった。がしかし、任務は果たさなければならない。コースを変更しながらも、一路ブランリヴァルを目指さなければならないのだった。
それから先は、もう無我夢中だった。ぐるっと迂回するつもりが、よりによってア・バオア・クーの激戦区の真っ只中を駆けずり回ることになってしまったのだ。これでは何のためにスルガから民間人を脱出させたのか分からないが、スルガが沈んだ今となっては、間一髪で民間人を脱出させられたことを喜ばなくてはならない。しかしそれとても、無事にブランリヴァルにたどり着いてこその話だった。曹長と二機体制にしていて本当に良かったと、ジャックは心から思った。アダム曹長の活躍がなければ、ランチの民間人はおろか自分の身さえ守れたかどうか分からないほどの激戦だったのだ。
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