ルザル艦隊の中に第十三独立部隊のホワイトベースを見たと思うと、そのホワイトベース所属のあのRX-78・ガンダムが異形のモビルスーツ(何が異形と言って脚がなかったのだ、脚が!)と交戦中で、ガンダムのパイロットにまず怒られて、青いゲルググ(おそらくはあのソロモンの悪夢!)が突っ込んできたと思ったら、ジオン軍が誇る宇宙空母ドロワの艦内を突っ切ってしまい、ガンキャノンのパイロットには怒鳴られ、ア・バオア・クーの表面を飛んでいたらコア・ブースターの女性パイロットには叱られ(ぱっと見だが美人だった)、またもやガンダムに遭遇したと思ったら首がなくなってるし、ひょっとしてア・バオア・クーの中で迷ってしまったのか? と思っていると、一面鏡で覆われたまばゆい空間に出てしまったのだ。
『少尉殿、これは……』
「ジオンの秘密兵器?」
空間を包み込む鏡はおそらくソーラ・システム――連邦が先んじ、そしてジオンが放った宇宙を焼く悪魔の光だ。
『こんなもの、ここで壊しとかないと!』
言うなり、アダム機はライフルをミラーに向けて撃ち始めた。ここまで戦場を潜り抜けてきたのも彼の活躍あってこそだが、だからこそ残弾はすぐに尽きてしまった。アダム機は、ランチに手を掛けたままのジャック機の方を振り向いた。
『バズーカ!』
「え……はいっ!」
アダム曹長が指示するのに、ジャックは即座に応じていた。自機に搭載されていたバズーカを取って寄越すと、アダム機は受け取るや否やぶっ放した。その攻撃で、この秘密兵器は使い物にならなくなったと知れた。ジャックは我が事のように快哉をあげた。
「やったぞ! 曹長、脱出だ!」
そこへ四機のザクが現れ、アダム機は見事に応戦した。そのうちに、先のアダム機の攻撃と、周辺の激戦のおかげか、ザクが出てきた方から爆発が押し寄せようとしていた。しかし一機のザクと組み合ったまま、曹長のジムは3号ランチを曳航する任務には戻らなかった。
『少尉殿……あとは頼みます!』
どこかで聞いた台詞だった。
かつての部下の最後の声が、ジャックの脳裏に蘇った。
(いやだ! そんなの二度と聞きたくない!)
そのジャックの心中の悲鳴もよそに、見たくない光景を隠すかのような紅蓮の炎が彼の視界を覆った。ジャックは堪らずに声を上げた。
「アダム曹長ーっ! ……うわぁぁぁぁーっ!」
爆発に飲まれて、アダム機は見えなくなった。そして、ジャック機と3号ランチもまた、ア・バオア・クーの通路を何処へとなく飛ばされていった。
(一体……何処へ……)
爆発のショックもあって朦朧とする中、どこかで聞き覚えのある声が聞こえた。
『そこを右っ!』
「え?」
『下っ!』
「ええっ?」
『曲がって!』
「えええっ?」
声に導かれるまま進むと、目の前に黒く切り取られたような宇宙があった。ア・バオア・クーを脱出できたのだ!
「うわぁーっ!」
最後に派手な爆発に吹っ飛ばされて、後方視界にあのホワイトベースが沈むのが見えた。名前を知る艦が沈む光景から目を離して前方を確認すると、ブランリヴァルの識別信号が飛び込んできた。
「識別信号を確認……着艦します!」
着艦は、モビルスーツの操縦にあたって最重要課題の一つである。相対速度をゼロにすると言えば聞こえは易しいが、そうそう出来るものではない。まして、スルガ所属のジャック機はブランリヴァルのシステムとの同期など取れているものではない、一か八かで着艦してみせるしかないのである。しかも、ア・バオア・クーを脱出するまでの間に、ジャック機は右脚を失っていた。片脚でしかもランチを曳航したという困難な状況のまま、ジャック機は殆ど一直線にブランリヴァルへ突っ込んでいった。ジャックは、思わず神に祈った。
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