酷い衝撃を伴って、ジャック機と3号ランチはブランリヴァルに着艦した。着艦時の衝撃だけでなく、どうやらデッキ内のモビルスーツに衝突したのも大きかったらしい。ランチのパイロットが即座にキャビン内の状況を確認、負傷者は出たかも知れないが死者は居ないようだと速報を送ってくれた。
『ホワイトベース級5番艦・ブランリヴァルへようこそ。皆さんの安全は保証されています……』
初めて聴く女性のブリッジオペレーターの声が、ここが知らない艦であることを告げていた。スルガは沈んでしまった。しかし民間人を守ることはできたのだ。任務完了、これでアダム曹長さえ居てくれれば――そう思うジャックの耳に、待ち望んだ声が飛び込んできた。
『どけどけどけーぃ!』
ジャック機の時を上回るような衝撃とともに、もう一機のジムが、ブランリヴァルに突っ込んできた。ジャックは、ようやくほっとした。
「一ヶ月の謹慎、ですか……?」
明るい病室のベッドの上で、アダムは目を丸くした。
「貴方も、全治一ヶ月で丁度同じじゃないですか。」
そのベッドの傍らで、ジャックは笑みを浮かべた。
「謹慎と療養とじゃ全然違いますよ、少尉殿。」
「ジャックで良いですよ。」
そう言うと、ジャックは傍らの椅子に腰掛けた。
彼らがブランリヴァルに着艦した時には、戦争は終わっていた。反対側のデッキには4号ランチとキョウイチ伍長も無事着艦していて、ジャック・ザ・ハロウィン隊の任務は無事遂行されたのだった。しかし、ジャック機が着艦時に破壊してしまった機体は、連邦の機密兵器であり、その故に一ヶ月の謹慎を言い渡されてしまったのだ。戦争が終わって機密兵器もあったものではないだろうと思うものだが、終戦協定が結ばれたとはいえつまらぬ小競り合いが続く中、ジャックを前線から遠ざけようとする力が働いていることくらいは、彼にも想像できることだった。
キョウイチ伍長は一機でランチを守り抜き、軍曹に昇進。元スルガ所属の機械化第一小隊へ編入され、戦後処理にあたっている。アダム曹長は全治一ヶ月の重傷を負い、小隊長が謹慎中とあっては、ジャック・ザ・ハロウィン隊は解散したも同然だった。
「驚いたのはヘンケン艦長さ。コロニー公社の役人と一緒に、スルガを間一髪で脱出していたというのだから。尤も、自分の艦を沈めてしまったものだから、昇進は見送られてしまったそうだけどね」
「実力のある艦長だ、その内認められるものでしょう。」
「確かにね。」
ジャックはあの豪胆な艦長を思い浮かべると、鞄から一通の辞令を取り出した。
「その艦長からでないのが残念なんだが……辞令が出ている。」
アダムはベッドの上で半身を正した。
「アダム・スティングレイ。少尉に任命する。」
「謹んでお受けいたします。」
「おめでとう。これが……ジャック・ザ・ハロウィン隊の小隊長としての、僕の最後の任務になります。」
アダムは、辞令とジャックを見比べた。ジャックは、姿勢を正したまま、瞳を微かに潤ませていた。
「ジャック……?」
アダムの声に、ジャックは首を振ると、持参したリンゴをナイフでむきはじめた。
「謹慎が解けたら、中尉の辞令を受けて後方勤務になることが決まったんだ。」
「それは、おめでとうございます。」
「ありがとう、と言うべきなんだろうな。なのに、今は……曹長、いや、少尉と離れてしまうことが……残念でならない。」
「アダムで結構ですよ。後方も重要な任務です。後方がしっかりしていなくては前線の兵士は戦えません。それはジャック、貴方も良く分かっておいでのはずだ。」
ジャックはリンゴをむく手を止めた。
「分かっています。分かってはいるんです……でも、まだ僕は貴方に教えて欲しいことが沢山あったと思えて……ならないんです。」
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