Camille Laboratory Topアルジェントソーマ>創作小説

はじめに

 この「休息する者」は、以前に朝貴千鶴さんのサイト「千羽鶴工房」さんにて、1・2の部分が掲載されていた小説です。残念ながら続きは掲載されていないままだったので、差し出がましくも、続きを書かせていただけないかと、こちらからお願いして、3を書かせていただきました。こういう形での連作というのは初めてでしたが、本来書こうとされていた物語がどのようなものか、サイトの他の作品など拝見しつつ、思いを巡らせながら綴らせていただきました。幸いにも流れは外していなかった模様で、千鶴さんにもお気に召していただけたようで何よりでした。当方も随分楽しませていただいて、改めまして感謝する次第です。本当にありがとうございました。

 今回ご好意により、千鶴さんによる1・2、そして3につけていただいた挿絵も併せて、当研究室にて公開させていただけることになりました。CDドラマ第1話の後日談にあたるものですので、CDドラマを聴いた方はそれを振り返りつつ、CDドラマをご存じない方でも本編に馴染んでおいでであればお楽しみいただけるものと思います。

しののめ 拝







休息する者・1



CDドラマ第1話「ハティとスーと」より
文:朝貴 千鶴(千羽鶴工房)


「……今、何、と仰いましたか?」
 人がこのような質問を返すのは、主に言われたことが単に聞き取れなかったか、信じられないことを言われた場合の2つである。
 この時のリウ・ソーマは、どちらかというと後者のほうだった。
「任務だよ、少尉」
 相手が珍しく動揺しているのを感じ取り、ラナ・イネスはめったに崩れることのない表情をほころばせた。
「リハビリがてら、ハティに街におつかいに行ってもらってるのは君も知っているだろう?今回はその4回目だ。
ハリス少尉、シモンズ中尉、グリーン中尉と回ったのだから、順から言って次は君の番だろう?」
 ――それはリウも知っていた。その度に何か欲しいものは無いかとしつこく聞かれていたからだ。
 ただ、そのお鉢が自分に回ってこようとは思っていなかった。自分には最も不向きな任務であるからだ。
「何、難しく考えることは無い。前の3人も、問題を起こさずに帰ってきてはいないからな」
「――問題?ハリス少尉やシモンズ中尉はともかく、グリーン中尉もですか?」
 正直、これには驚いた。ハリス少尉は言うまでも無く、すぐ熱くなるシモンズ中尉もなんとなくわからなくも無い。しかし、冷静で常に的確な判断を下す彼女が、いったい何をしたというのだろうか。
 素直に口をついて出たリウの疑問にイネスは答えなかった。
 ただ、遠い――……とても遠い、明後日の方向をふっと一瞬見たのを、リウは見逃さなかった。
「お言葉ですがコマンダー、自分は明らかにこの護衛任務には向いていません」
 突っ込んではならない気配を察し、話題を切り替える。
「ほう、何故だね。」
「自分のこの容姿です。顔の傷といい、瞳の色といい、目立ちすぎます。それに――……」
自分はハリエットに嫌われているから、と続けようとしたのを、イネスは許さなかった。
「しかし、ハティは今日の『お出かけ』を楽しみにしているんだがな」
先手を打った。
 思わぬ反撃に、リウは言葉を失った。
(そういえば最近は「妖精君を助けてくれてありがとう」とかいって妙に懐いて来ていたな……)
 ハリエットの感謝は明らかに誤解だったが、それがこんな形で影響しようとは思わなかった。
「では、一時間後にラウンジで待っていてくれ。頼んだぞ」
 言葉を失っているうちにさっさと話を進められた。
(――やられた……)
 駆け引きにおいて、コマンダーであるイネスに勝てるわけが無い。
 リウは完全に、断るタイミングを逃してしまったのだ。


1/5 ◆ nextTopアルジェントソーマ