Camille Laboratory : ZEGAPAIN Topゼーガペイン>創作小説>arm in arm 決戦! 腕相撲

 その頃トミガイは、キョウ達とは別の廊下を小走りで進んでいた。
 生徒会室を後にする野次馬の中にカワグチ達の姿を見掛けて、彼らを追っているのだ。
「待ってよ、カワグチ君!」
 その声に、カワグチはトミガイの方を振り向いた。
「何だよ」
「ソゴル君の腕相撲、見てたんでしょ」
 カワグチはその問いに、けっと小さく吐き捨てた。

「あんなもん勝負になってねーじゃんかよ」
「でもそれは、さっきカワグチ君と──」
「そんなもんは言い訳になんねーよ!」
 トミガイの非難をそう切って捨てると、カワグチはそのままつかつかと歩き去ってしまった。
 ハヤセとウシオはその後姿を見遣ると、トミガイにじゃあな、とだけ声を掛けてカワグチを追うように歩いていった。トミガイは、そんな三人をただ見送るしかなかった。


 腕を痛めたことはおくびにも出さずに正々堂々と勝負して負けたキョウを見て、カワグチはその結果に不満でならなかった。自分がキョウを傷つけてしまった、その後悔は怒りへと転化していた。
 ──キョウならあんな生徒会長に負けるはずはないのに。何だよちょっと掠ったくらいで、情けねぇ。あの野郎、いつまで寝ぼけてやがんだ。
 そんなキョウに対する不満が渦巻いて、カワグチは黙ったまま歩き続けた。

 ハヤセとウシオの心中にも、同じ不満はない訳ではなかった。だが、それでも水泳部を懸けて勝負を挑んだキョウの本気が、垣間見えたようにも思えた。
 中学時代からのつまらない意地を張り通すにも、そろそろ潮時にも感じられる。二人はそれぞれに、水泳部に入ろうか──いや、戻ろうかと考えていた。


「まさかこんなことになるとはね」
「何が言いたいんだね」
 生徒会室で声を掛けたシズノに、シマはちらりと視線をよこして答えた。そんな二人の会話を耳にして、ミナトの亜麻色の髪が振り返る。

「シズノ、いつからそこに?」
「あら、気付かなかったの」
 そう返したシズノはキョウをずっと見ていたのだが、シマから目を離せないでいたミナトの視界に入っていなかったであろうことくらい想像はつく。

「残念だったわね、と言うべきかしら?」
 シズノがパートナーであるキョウを案じているのを知っていて、笑みを含めたミナトがそう言い放つのに、シズノは目蓋を伏せて薄く笑った。
「今回は運がシマの味方をしたようね」
「運も実力のうちよ!」

 そんなシズノとミナトのやりとりに、クロシオが小さく吹き出した。即座にミナトとイリエの咎める視線が突き刺さって、咳払いをして黙り込む。ふぅ、と息をついたシズノはシマをしばらく眺めて、表情を緩めた。
「感謝してるわ」
「君にそう言われる理由はないが」
「そうかしら」

 シズノは肩に掛かる長い黒髪をそっと払うと、生徒会の書類を片付け始めたミナトの目を盗むように、シマのすぐ側にまで近付いた。
「残された時間が少ないことに、彼はまだ気付いていない。だから焚きつけたのでしょう?」
 そうシズノに問われても、シマはただ、口の端を上げただけだった。シズノは目蓋を伏せると、横目をやって控えめに呟いた。

「それにしても、貴方が茶道部だなんて知らなかったわ」
「君に話した覚えはないからな」
 ばつが悪そうにシマが顔を背けるので、シズノはその横顔を覗き込んだ。
「お茶会って、面白そうね」
「ならば君も来ればいい」
 まるで売り言葉に買い言葉。シマが誘う形で、シズノも茶道部の客となった。


「すっかり曇っちゃったね」
「あぁ、夕方から雨になるって言ってたな」
 二人並んでプールに向かって歩きながら、キョウとリョーコは雲に覆われた空を見上げていた。
「でも、あの雲の上には、いつでも青空があるんだよね」
「昼間ならな」
「だから──今日は負けても、また明日があるじゃない」
 笑顔でそんなことを言うリョーコに、キョウは瞬きをした。
「何だそりゃ」
「もう、慰めてあげてるんでしょ」
 リョーコはそう言って、ぶぅ〜っと頬を膨らませた。
「さんきゅ」
 キョウはそう答えて、表情を緩ませた。

 いつも通りのリョーコがそこに居る。その光景が、キョウには温かく感じられる。
 殴られた腕の痛みは、きっとそのままカワグチの心の痛み。腕相撲でしっかりと組み合った手から伝わってきたのは、シマの本気。その自分の感じ方は、決して夢なんかじゃない。
 オレ達は生きてるんだ、この舞浜の空の下で。
 それが、今のキョウにとっての現実の認識だった。


(0808.17)




あとがき

 #08「水の向こう側」と#09「ウェットダメージ」の間に入る話です。#08でのメールの日付が7/5、#10では7/15なので、それに合わせた日程を2022年のカレンダーで組んだら超過密スケジュールになってしまいました。

 生徒会の4人が茶道部だという捏造設定の創作は、天野レンさんの「茶道部にて」が先に出ています。この茶道部の話はレンさんとお話していた折に着想したものでして、設定など一部共通しています。実際のお茶会『夏の茶会』も合わせてどうぞです。


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