Camille Laboratory : ZEGAPAIN Topゼーガペイン>創作小説

 こちらはC76夏コミ発行のゼーガペイン本(同人誌)「Quantum Leap 10 : the alternative factor」のサンプルページです。興味を持たれた方は是非出版課をご覧ください。


the
alternative factor
二つの鍵




the days after




   1

 司令私室に呼び出されるなんて何事だろうと、ハヤテ・クロウは緊張した面持ちで、黙ったまま座っているルヴェンゾリ司令のニソスの前に立っていた。
 最近は特に問題を起こしてはいないはずだ、何を言われても胸を張っていていいはずだと言い聞かせていると、彼の傍らを通り過ぎた副司令のバイアがニソスに並ぶ。

「待たせてごめんなさい。貴方にはドヴァールカーへ行ってもらいます。スケジュールはこの通り」
 バイアが開いてクロウに見せたモニタには短い文字列が並んでいる。これは既に決定事項であって彼の意見は求められていないようだ。

「あの、やっぱりぼく何か……」
 この艦の一員としての自覚も自負も持てるようになってきたところで他艦へ放り出されてしまうのか。しかもあのドヴァールカーだなんて、お荷物になりに行くようなものではないのか。焦るクロウを見て、ニソスはバイアと顔を見合わせて薄く笑った。
「元は君が言い始めたことだろう、イェルの見舞いに行きたいと」
「……覚えていてくださったんですか」

 最終作戦と呼ばれた戦いの後──それでもガルズオルムの残存勢力との小競り合いは続いているのだが──セレブラムは旗艦のオケアノスを失い、シマ司令やイェルを含むクルーの消息は不明とされていた。
 クロウはそれ以上の情報を知り得る立場になかった。だがシマ司令の代理として現れたイェルと最後に会ったときのことは忘れられるものではなかった。その会話の内容も当然のことだけれど、彼女個人の消息が知れないということもずっと気になっていた。


 折に触れてイェルのことを尋ね続けるクロウに、彼女はとあるサーバーに居るのだと根負けしたバイアが漏らしてくれたのは随分前のことだった。
 セレブラムでも特異な地位にあるイェルがサーバーから出てこないままだというのは、余程のことがあったに違いない。そう考えたクロウが彼女の見舞いに行きたいと申し出ると、ニソスは彼を見据えて静かに告げた。

「イェルはセレブラントとしての記憶を失っている。君のことも覚えていないだろう。会ってどうする」
 あまりのことにクロウは薄く唇を開き──震えるそれを固く結んでから言った。

「だからこそお見舞いに行きたいんです。ぼくも記憶をまるで失くしてしまっていた、でもこの艦の任務で色々な人に出会って、ぼくを知ってくれている人にまた会えるということがこんなにも嬉しいのかって。だからきっと」
「イェルはオケアノスのクルーと共にある、彼らは彼女のことをよく知っている」
「でも、ぼくしか知らないこともあるはずです」
 それはクロウの切り札だった。オケアノスのクルーが如何にイェルと親しかろうと、レジーナのことまで知っているとは思えない。

 ──いや、シマ司令なら知っているか。
 今までの話に彼の名は出てこない。イェル以上にシマの情報が伏せられているのは無理もないこととは思うが、彼が健在ならイェルが記憶を失ったままなのは合点がいかない。クロウの想像以上に事態は深刻なのではないか。

 バイアがそっと耳打ちをするのにニソスは頷いた。バイアはクロウに向き直って口を開いた。
「話は確かに聞きました、でも今は下がって」
 クロウは一礼して司令私室を辞した。手札は尽きていないという感触を得て、彼は時を待つことにした。


 あれから随分時間が経ったが、ようやくイェルとの面会の許可が下りたということらしい。ニソスが続けた。
「イェルの居るサーバーに接触するにはドヴァールカーのイゾラ司令の指示に従ってくれ。向こうでは新たな任務も発生するからそのつもりで」
「分かりました」
 見舞いに行くとはいえ他艦へ移乗するからには遊ばせてはくれないらしい。身を硬くするクロウを見て、バイアが微かに笑みを浮かべた。

「彼女が居るのは日本の都市サーバーよ。貴方は日本の出身なのだから、良い休暇になればいいわね」
 柔らかな声でそう言われて、クロウは顔を綻ばせた。
「ありがとうございます!」
 これでようやく、イェルに会える。クロウは久しぶりに心が軽く浮き立つのを感じた。






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