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ゼーガペイン
>創作小説
こちらはC76夏コミ発行のゼーガペイン本
(同人誌)
「Quantum Leap 10 : the alternative factor」のサンプルページです。興味を持たれた方は是非
出版課
をご覧ください。
cage of wizard
魔女の檻
KYO & SIZUNO
entanglement17「復元されし者」より
まるで目に見えない檻でもそこにあるかのような。
オケアノスのブリッジの張り詰めた空気がソゴル・キョウには痛く感じられていた。
かつてのように、非難がキョウ自身に向けられているのであればまだよかった。だが今はこの艦を離れているシマとシズノにクルーの不信感は向けられていた。
副司令のミナトの指示で、哨戒飛行中のクリスとメイイェン、そして緊急時のみ呼び出されることになっているカミナギ・リョーコ以外は全員ブリッジに待機している。
舞浜サーバーに居ればリョーコに問題はないはずだ。何事もなければいいと思う、キョウの心配事は今このオケアノスにこそあった。
不在のシマとシズノを疎外するかのような空気があるのが、キョウにはどうも受け入れられなかったのだ。
先に二人が不在だった折に、オケアノスはガルズオルムの復元者に侵入されていた。しかもその敵はイェル=シズノを名指しで探していたのだ。それではこの空気も仕方ないとはキョウにも分かる。──けれど。
共有スペースのベンチに一人で掛けて、床に目を落とすキョウの耳にルーシェンの低い声が聞こえてきた。
「二人は何処へ行ったんだ」
「私には答えられないわ」
司令席を預かるミナトが答えると、クロシオが自分の端末の表示を確かめて口を開いた。
「カラドリウスの転送座標は、通常とは違う手順で暗号化されているな」
「それでは答えようがないな」
そう息を漏らすルーシェンに、ミナトもため息混じりに答えた。
「だからそう言ったでしょう」
司令席の脇に投影されているAIはこの話題には触れないつもりらしく、黙々と各々の作業を続けている。
「他の母艦と接触するにしてもやけに扱いが厳重よね」
メイウーの言葉にキョウは振り向いた。
「他の?」
二人の離艦はそういう目的だとキョウは聞いていなかった。だが、言われてみれば他艦との接触手順の基本を踏まえた行動であるとは分かるような気がした。
「だからシズノが一緒なんでしょう」
元々高いミナトの声が更に半音上がるのを聞いて、ルーシェンは薄く笑った。
「副司令としては面白くないか」
「そうは言っていないわよ」
ミナトは平静を装ってそう答えるが、ルーシェンから背けた彼女の頬は微かに膨らんでいるように見えた。
「でもさ」
咄嗟にキョウが声を上げると、ミナトは水色の瞳できっと睨みつけてくる。
「何よ」
「今回は副会長にちゃんと後を任せて行ったんだろ」
キョウの言葉に、ミナトは唇を薄く開いて瞬いた。
「そう言ったでしょ」
「なら信頼されてるってことじゃん」
キョウが明るい声で言うのに、ルーシェンは彼の顔をまじまじと見た。今度はキョウが問い返す。
「何か顔に付いてる?」
「いや」
ルーシェンが口の端を上げているのを見て、キョウは小さく息をつくと頭の後ろで両手を組んだ。
「先輩と生徒会長が揃って居ないのって、そんなに気になんの?」
「前回が前回だったからな」
腕組みをして答えるルーシェンの言葉はキョウの予想通りのものだった。
あの日のことを思えばキョウの背中にもぞくりとした感覚が甦る。口を結ぶキョウの頭の上の方から、ルーシェンの冷ややかな声が降ってきた。
「イェルの名を持つシズノは元より、シマ司令にも疑問はある」
「お前、前にもそう言ってたよな。そんなに気に入らねぇの?」
腕を膝の上に下ろして、キョウはルーシェンの顔を見上げた。舞浜南高校の図書室に現れた際の彼の言葉をキョウは思い出していた。
「そういうつもりではないさ、ただあの二人には何かあると思えてならない」
「シズノの出身サーバーを知ってるセレブラントって、居ないしね」
メイウーはキョウを見据えるようにしてそう告げる。そう言われればそうだとキョウも思うが、今は黙っていろと心の中で誰かが告げている。
メイウーに答えないままキョウが床を見ていると、ルーシェンの声が突き刺さってきた。
「シマ司令は舞浜の出身なんだろう」
その確証を自分が持たないことに気付いたキョウは、彼の誘導尋問をはぐらかすことにした。
→ QL10 二つの鍵
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