Camille Laboratory : ZEGAPAIN Topゼーガペイン>創作小説

 こちらはC75発行(冬コミ新刊)のゼーガペイン本(同人誌)「Quantum Leap 08 : boys be brilliant」のサンプルページです。興味を持たれた方は是非出版課をご覧ください。


hold your potatoes
焼き芋大作戦!




KYO & LU-SHEN in the days after




 千葉県南部の青く高い空には雲一つなく、透き通った風が吹き抜けて揺れる木立は乾いた音を立てていた。頬に感じる肌寒さは深まりゆく秋を告げている。この地球でただ一人肉体を持つ人間として暮らしているソゴル・キョウは水泳部分室の小屋の扉を開けて室内に入ると、被っていたニットの帽子に遣った手を止めた。
「珍しいな」
 ぱちくりと瞬いて彼が見た先には、舞浜南高校の冬の制服を着た銀髪の青年の姿があった。
「もっと他に言うことがあるだろう」
 呆れたような物言いではあるがその声は柔らかい。キョウは下げていた袋をテーブルに置くと、目を見開いた。
「そっか、ルーシェンはこっちに出て来たの初めてだっけ──って! お前何ともないのか?」
 ようやく事態を把握して声を上げるキョウを見て、ルーシェンは薄く笑った。
「何ともないから出て来たんだろう、すぐに実戦とはいかないが。待たせたか?」
「待たせすぎだ」
 キョウは彼を見据えて答えて、満面の笑みを浮かべた。

 ガルズオルムの月面基地ジフェイタスでの決戦で、ルーシェンが負ったダメージは大きなものだった。消滅するゼーガペイン・ガルダからメイウーと共に舞浜サーバー内に転送されたルーシェンは、その後時間を掛けて心身の回復を図っていた。彼はシマから託された幻体修復プログラムの解析にも取り組み、自身の幻体データへの適用を試みてようやくゼーガペインの量子サーバーへの幻体転送に耐えられるまでに回復したというのである。
 現在の舞浜サーバーはイゾラ司令の指揮する飛行母艦ドヴァールカーとリンクしている。母艦のゼーガへの転送でテストした上で、ルーシェンはキョウのゼーガペイン・アルティールへの転送を試みたのだろうとキョウは考えるが彼のことだからこれが初挑戦だというのもありえる話だ。

「とにかく良かったよ、ルーシェン。前と変わりないようだし。ほんとに──」
 キョウの言葉は高い声音で抜けて途切れた。ルーシェンを見たまま彼が口ごもるのに、ルーシェンは瞬きで続きを促した。キョウは頬を指で掻きながらためらいがちに口を開いた。
「似合ってんのか似合わねぇのか、ビミョーだな」
 苦笑交じりの不躾な物言いにルーシェンは口を結んだ。慌ててキョウが言葉を継ぐ。
「いや、悪くはねぇよ。オレが見慣れてないだけでさ」
 ルーシェンは自分の身にまとった制服を見た。
「俺としては慣れてきたと思ったんだがな」
「そんなに時間が経ったかな。前の舞浜じゃ冬服なんて着なかったし」
 キョウの言うように、以前の舞浜サーバーは四月四日から八月三十一日の五ヶ月間がループする世界だった。今はサーバーの余裕が出来たためにループは一年間に延長されている。それでもリセットは免れないが、現実世界との同期は取れるようになっていた。終わらない夏を繰り返していた舞浜にも、もうじき冬がやってくる。
「君が冬服を着ているのも、見てみたかった」
 ルーシェンがそう言うのに他意はないのだろう。キョウは羽織っていたパーカの裾をつまんで見遣った。
「卒業式ではちゃんと着るよ」
 その答えに、ルーシェンは口の端を上げてみせた。一息つくと、改めて彼はキョウに尋ねた。
「すまないが、掛けてもいいかな」
「あぁ。悪いな、気が利かなくて」
 キョウはテーブルの脇に椅子を出すとルーシェンに勧めた。分室内はサーバー管理ブロックの扱いになっていて、幻体は普通に行動できるが、実体への干渉は不可能だ。椅子に座るという動作をシミュレートできるようにしていても、実際に椅子には触れられない。ルーシェンが座ったように見えてから、キョウは自分も椅子に腰掛けた。

<中略>

 話題が一段落して、ルーシェンはふとテーブルに置かれていた袋に目を留めた。
「ところでキョウ、それは何だ」
「あぁ、焼き芋食おうかなって。千葉県特産紅あずま」
 キョウが袋から出したのは、丸々としたサツマイモだ。ルーシェンはそれを見たまま微かに眉を上げた。自分の日本語が彼に通じていないのかとキョウは訝った。
「あれ、言語サーバーに問題ある?」
「異常はない。そのサツマイモを焼いて食べるというのだろう」
 ルーシェンに頷きつつ、キョウは問い返した。
「どうやって焼くのかが分からないのか?」
「そのくらい分かる、上海にだってあったんだ。だが」
「食ったことはない、か」
 どう反応したらよいのか戸惑うようなルーシェンの顔はキョウの言葉が正しいと無言のまま告げている。
「ま、そーだよな。焼き芋なんて庶民の食い物だ」
 ルーシェンのような坊っちゃん育ちが焼き芋を買い食いする光景など思い浮かばない。
「そういうことを言いたいんじゃ……」
 珍しく言いよどむルーシェンに、キョウは明るい笑みを向けた。
「舞浜で食えばいーじゃん。これも一つの初体験って」
「どうすればいいんだ」
 身を乗り出して問うルーシェンを、キョウは腕組みをして見据えた。
「それは自分で考えるんだな」
 そう言われたルーシェンは困惑を隠さない。珍しいものを見て、キョウは額を指で掻くと苦笑いを浮かべた。




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