Camille Laboratory : ZEGAPAIN Topゼーガペイン>創作小説

 こちらはC75発行(冬コミ新刊)のゼーガペイン本(同人誌)「Quantum Leap 08 : boys be brilliant」のサンプルページです。興味を持たれた方は是非出版課をご覧ください。


black-and-white
黒と白




KYO & LU-SHEN in past days




 太平洋を北上したオケアノスは日本に立ち寄っていた。シマ司令の指揮するこの飛行母艦はオケアノス級の一番艦であり、セレブラムにあっても特別な地位にある。だがその所以を知る者は限られていた。
 舞浜サーバー出身のガンナーであるソゴル・キョウは、司令クラスのセレブラントでもないのにそれを知る稀有な存在だった。五ヶ月でリセットされてループする舞浜サーバーにあって、彼は舞浜南高校の一年生を繰り返して今期で四回目になる。キョウは放課後の部活を終えると制服のままいつものようにオケアノスを訪れた。静かなブリッジにはAIの操作する艦の機器の電子音が僅かに聞こえるだけだ。ガルズオルムとの戦いが続く中、この平穏はありがたいとキョウは安堵した。

 広いブリッジに設けられている公共スペースのベンチに珍しい人影を認めて、キョウはそちらに足を向けた。銀色の髪の青年は考え事でもしているのか腕を組んだまま目蓋を伏せている。キョウの足音に気付いた彼は翡翠の瞳を向けて両手の指を組みなおした。
「ひとりか、ルーシェン」
 キョウが掛けた声にルーシェンは頷いた。
「司令とシズノは出掛けている。留守を任された」
 ルーシェンがそう言って視線をブリッジ上部に向けるのに、キョウもそちらを振り向いた。いつもならシマの居る司令席は空だった。
「そうか」
 キョウはそう答えるとブリッジ前部のメインモニタを見遣った。オケアノスの現在位置は東京湾の入り口近く。モニタに映る水平線の彼方、陰鬱な空の下には現実の舞浜がある。
「舞浜はここから近いのか」
 ルーシェンに胸中を見透かされて、キョウはどきりとした。内心の動揺が声に出ないように小さく息を吸う。
「まぁな、東京の近くだから。でも何で」
「今の君の目は故郷を見ていた」
 柔らかな声でそう言われてしまって、キョウはそっとルーシェンから視線を外した。
「あるのは廃墟だけなんだけどな」
「舞浜サーバーはまだ稼動しているだろう」
 ルーシェンがそう言うのに、キョウは返す言葉がなかった。確かにルーシェンの言うとおりキョウの故郷である舞浜サーバーは生きている。だがその実データは現実の舞浜から移されていて既にそこにはなかった。
 そしてルーシェンの故郷である上海サーバーは先の戦いで破壊されてしまっていた。ルーシェン自身もその戦闘で傷つき、長い眠りから目を覚ましたばかりだった。そんな彼の前で舞浜サーバーの話はするべきではないとキョウは考えた。
 小さく俯いてしまったキョウを見て、ルーシェンは銀色の髪を小さく揺らした。
「失礼ながら、セレブラントになるまで舞浜という名は知らなかった」
「それもそうだろう、上海みたいな大都市じゃない。でも良い町だよ」
 キョウはルーシェンの隣に腰掛けて、彼の話に付き合う姿勢を示した。今は彼の話を聞かなければならないのだとキョウには思えた。自分に話すことでルーシェンの心が軽くなるというのなら何でも聞いてやりたいと思った。

<中略>

 オケアノスは位置を変えつつも舞浜からは離れすぎない距離を保っていた。シマとシズノの帰艦には今しばらくかかるらしい。茶碗を置いて、んっと伸びをするキョウにルーシェンがこんなことを言った。
「時間があるのなら、一つ手合わせを願えないか」
「素手は勘弁な」
 腕を下ろしたキョウは苦笑しながら答えた。拳法をやっているルーシェンに一度叩きのめされて以来、喧嘩仕込みの徒手空拳では彼に勝てそうな気がしないでいた。
「囲碁ならどうだ」
「少しなら分かるけど」
 口元に手を遣って答えるキョウにルーシェンは頷いた。
「俺も少ししか分からない」
「それならいい」
 ベンチの座面上の空間に碁盤を呼び出して、ルーシェンは黒の石、キョウは白を取った。囲碁は通例黒が先手だ。
「良いのか、囲碁は先手必勝だろう」
 勝気な瞳を向けてくるルーシェンに、キョウも負けじと腕を組んで彼を見据えた。
「それに後手で勝つのが良いんじゃないか」
 ルーシェンは目蓋を伏せて笑うとキョウに向き直り、双方は一礼した。




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