キースロンはしばらくやっていなかった部屋の片付けを始めた。こんなことなら昨日にでもやっておけばよかった……などとぶつぶつ言いながら手を動かしていると、ノックの音が響いた。
「トーレスか? 入れよ」
ドアが開くと、トーレスのブロンド頭のすぐ下から、いたずらっぽい瞳が覗いている。
「何だ、カミーユも居たのか」
「何だとはないだろ? 手伝いにきてやったのに」
すぐにふくれるカミーユの肩を叩きながら、トーレスは言った。
「ふくれんなよ、そのくらいで。 ――で、どうだ?」
「見ての通り、前途多難だよ」
キースロンは『お手上げ』とでも言いたげに肩をすくめてみせた。さすがにディスク類はモニターのそばにまとめてあるが、雑誌や上着などはまだまだそこかしこに散らばっている。男二人の相部屋ともなると壮絶な光景だ。
「俺の部屋の方が良いんじゃないか? 昨日片付けたばっかりだし」
カミーユの提案を、二人は慌てて拒絶した。
「そりゃまずいよ。お前の部屋士官ブロックだろ。」
「だから?」
「だから、まずいんだろーが。」
トーレスに諭されて、カミーユはようやく合点がついてうなづいた。いくら防音処置がしてあったとしても、室内の事態がバレないという保証はない。
「じゃあ尚更だ。手伝うよ」
粗方片付いた頃、シーサーとサエグサが、軽くのびをしながらトーレスとキースロンの部屋にやってきた。
「よぉ。片付いたか?」
「あともうちょいってとこかな。さっきは起こして悪かった」
「なに、その分楽しませて貰うさ」
サエグサはニヤリと笑った。
「よし、こんなもんだろ。キースロン、主役は何処だ?」
トーレスが振り返ると、キースロンはきょろきょろしている。
「さぁて何処だったか……」
「お前なぁ!」
「マジに取るな、マジに。ちゃーんとあるぜ」
キースロンはウィンクしてみせて、後ろ手に引いた箱をどん、と置いた。
「じゃーん♪ 本日の主役ーっ!」
箱の中には様々な形の瓶が並んでいる――酒だ。
「凄いじゃないかキースロン!」
シーサーは口笛を吹いた。
「サマーンにも声掛けたんだろうな?」
サエグサの問いにトーレスはうなづいた。
「勿論。本当はトラジャさん達にも声掛けようと思ったんだけど、宿直明けだったからね……」
言いながら、トーレスは何本かの瓶を選り分けた。
「ま、これは取っといてやろうな。いいだろ?」
異口同音に同意を得て、トーレスは瓶を空き箱に隔離した。
「……宿直明けの寝起きなんかに飲ませたら、また眠くなるんじゃないか?」
カミーユはシーサーとサエグサの方に目をやって、トーレスに示唆した。
「そうだ、それそれ! 二人とも寝起きじゃん、大丈夫か?」
その二人を自分で起こしたことはすっかり忘れて、今更のようにトーレスは慌てた。
「一口付き合うだけにしとくよ。」
シーサーは残念そうにため息で答えた。
「どうせもうじきサマーンと交代だしな。」
サエグサは時計を覗いた。
「じゃ、早いとこ始めようぜ」
キースロンの指が、瓶をはじいて高い音を立てた。
港の無重力ブロックに停泊しているため、瓶からグラスにとくとくと酒を注いで、そのまま口をつける――という訳にいかずに、ストローを使わなければならないのが、まぁ残念と言えば残念なのだが、それでも酒をやっている分には変わらないので、瓶はだんだん空になってゆく。
「じゃあ、俺達行くな」
シーサーとサエグサが席を立った。
「あぁ。サマーン呼んできてくれよな」
「了解だ。ごちそうさまっと」
最初に言った通り、殆ど口をつけていなかった二人とは対照的に、休暇中の三人は最初の瓶をすっかり空にしていた。
「結構飲むねー。」
少々あきれて、カミーユ。
「なに、まだ序の口!」
今は威勢のいいキースロン。
「今日は、飲むぞー!」
同じく、いつにまして元気のいいトーレス。
そう、まだ瓶は空いたばかりだ……。
|
|