サマーンが加わり、トーレスとキースロンの部屋はかなり酒くさくなってきた。エアコンが作動しているからこの程度で済んではいるが、なかったらどうなっていたことか。そう考えると、エアコンと防音の設備には感謝の至りである。
サマーンは顔をほの赤くして、とろりと気持ち良さそうに体をゆすりながら酔っている。トーレスは手にしたカードをつまみと間違えて口にしようとして、言われるまで気が付かない。キースロンはといえば……
「何だか目がすわってきてるよ、」
カミーユが珍しく冷や汗まじり、といった声音で言った。
「うっせーなぁ、お前の番だぞ」
キースロンの声音は目の表情さながらに凄みが入っている。
「あぁ、」
そこでカミーユは自分の手札を見て一息おいた。
「なぁ、皆大分出来上がっちゃったみたいだし、お開きにしないか?」
「なんらとー。もう一度言ってみろいっ」
トーレスが言うそばから、キースロンがカミーユにかみついた。
「さては負け札かぁ? 見せてみろー。」
ひったくるようにして――というより、本当にひったくったカミーユの手札を見たキースロンだったが、
「なんら、じぇんじぇんおもしろくねーぢゃねーか」
などと言うので、トーレスとサマーンがカミーユの手札を確かめてみたのだが……
「をい、キースロン。お前相当酔ってるぞ」
「へ? 誰が酔ってるって?」
「てめーだよてめー。さては目ン玉までアル中か?」
トーレスが差し出したカミーユの手札を検めたキースロンは、酔いが覚めたような気がした。
「あ、あがってんじゃねーかよー。ふざけんぢゃねーっ!」
「ふざけてないって! だから終わろうって言ったんじゃないか、」
何とか言ってやってくださいよ、と言いたげにカミーユはサマーンとトーレスを見た。
「ま、カードは終わるしかないわな」
サマーンはカードをまとめだした。
「しかしカミーユも強いねぇ」
ニヤっと笑うトーレスに、カミーユは少々憮然として答えた。
「皆が早々に出来上がるからだろ?」
「カードの話だけぢゃねーんだぞ、俺の言ってんのは」
「どういうこと?」
「酒だよ、酒! 俺達と一緒に飲み始めたくせに、まだ充分シラフぢゃねーか!」
「そういやそうだな」
素直に感心するサマーンをよそに、買い出し係のキースロンは凄んでみせた。
「俺の買ってきた酒を飲んでないたぁ言わせねーぞ!」
「ちゃんと頂きましたよ、ごちそうさま!」
カミーユはキースロンの耳元で殆ど空の瓶を振ってみせた。
「それにしても、お前がこんなに強いなんて知らんかったぞ、この未成年め。」
「……こないだ18にはなったってば。」
「にしたって、お前が強いには違いねーだろーが。」
まだそこに拘るトーレスに、サマーンが応えた。
「そりゃあ、こうしてカミーユと飲むのなんて初めてだからな」
「まぁ、確かに。」
サマーンのもの言いに、素直に納得したトーレスだったが、カミーユまで一緒にうなづくのは何故か許せなかった。
「なぁんでお前までうなづくんだよ、飲んだことないたぁ言わせねーぞ!」
「そんなこと言ったって……本当に、こんな感じで飲むのは初めてなんだから。」
「まぢか?」
「あぁ。」
真顔でにらめっこを始める二人に、キースロンが割って入った。
「じゃあ何か? お前、友達と飲み会とかしたことなかったって?」
「したいとも思わなかったしね……」
ため息まじりの横顔は、一瞬で彼の表情を奪う。
そんなカミーユの瞳を覗くようにして、トーレスが口を開いた。
「でも、今は、いいんだろ?」
カミーユは、最近になってするようになった穏やかな微笑を見せた。が、ふと思い付いたように――これも最近の傾向だが――小悪魔的な笑みを浮かべて、
「でもさ、皆早々に戦線離脱だものな。つまんない」
さっきまでの態度とは裏腹にも思えるカミーユに、トーレスとキースロンは食って掛かった。
「てめーが強すぎるんだてめーが!」
「そんなに強いですかね?」
二人がかりで迫られて、カミーユはサマーンに助けを求めた。
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