「かなり強いと思うよ。アーガマクルーの中でもいいトコ行くんじゃないか?」 その言葉に一同は考え込み、当のカミーユが控えめに口火を切った。
「……だって僕が最年少なんですよ、飲める人なんて結構居るんじゃないですか?」
「そりゃあそーだろーけど……」
「だぁれも居ないと思っていても♪ ってか?」
陽気なメロディに『へっ?』と驚くと、声の主はサマーンであった。
「どうしたんだ、皆?」
「だっていきなり歌い出すから……」
「うたぁ? ――あぁ、癖でね。分かっちゃいるけどやめられない♪ という奴でね」
そこまで言ってサマーンは、はっと口をつぐんだ。心配顔のカミーユが覗き込んだ。
「何か問題でもあるんですか?」
「確かサエグサも歌う口だった……」
固くなるブリッジクルー三人。先刻まで一緒にやっていたサエグサは今当直のはずだ。
そのサエグサとシーサーは、二人だけで当直を務めていた。当直と言っても港の中ではそれほどすることもない。ブライトも艦長私室に引っ込んでしまっていて、ブリッジに来そうにない。それで少々気が緩んだか、サエグサは雑用を片付け始めた――鼻歌まじりで。
「出ました! サエグサさんの十八番!」
茶々を入れるシーサーに、サエグサは笑いながら応えた。
「はははっ♪ ……しかしお前、何で知ってるんだ?」
「やーだなぁ。前飲んだ時も歌ってたじゃないですか。」
「前、って何時飲んだ? お前と?」
「ひどーい。覚えてないんですかぁ?」
「何時のことだかぁ思いだしてごらん♪」
ノリノリのサエグサに、シーサーも調子に乗り始めた。
「だぁーもぅサエグサさんのいけずゥ!」
「――誰がイケズだ、誰が!」
一方、トーレスとキースロンの居室。
「どーしよっどーしよっ♪」
「歌ってる場合じゃないでしょっ!」
「そらてめーはシラフだからいーだろーけどなッ!」
「怒鳴ってる場合でもないだろっ!」
「何とかしてみせてよんカミーユちゃんっ☆」
「絡んでる場合かっ!」
かなり良い音がして、キースロンが床に伏せた。
「殴るこたぁねーだろーが!」
「ごめん。やっぱ俺も酔ってるみたいだ、手の方が先に出るなんて……」
寧ろその言い方の方が酔いの証左のようなカミーユに、キースロンはバッと身を起こして怒鳴りつけた。
「いつものことだろーが!」
「いつもだって!」
ついカッとなって反発したカミーユだったが、怒鳴ったのが自分一人でないと知って黙らざるを得なかった。開いたドアの所で怒りのあまりか口を開かない人物は、アストナージであった。
沈黙の内に、ドアだけがシュンと音を立てて閉じた。
「アストナージ曹長、」
言って、立っていたカミーユが姿勢を正すと、三人とも立ち上がって彼に倣った。
「まぁ、いいから座ってろ。」
顔を見合わせて四人がそこここに腰を下ろすと、アストナージは一呼吸置いて詰問した。
「いつもこんなことをしている訳ではないな?」
「はい、勿論です。」
言い出しっぺのトーレスが答える。
「たまたま自分達が、コロニー内への個人嗜好品買い出しの担当になった際に手に入れまして」
キースロンが後を続けて、サマーンがその後を受ける。
「量もこれほどですし、ブリッジクルーで飲み会にしようという事になりまして」
「僕はたまたまトーレスが誘ってくれたんです」
ふーん、とアストナージは息をつくと、サマーンに向き直った。
「ブリッジクルーと言ったな、後は誰が?」
「シーサーとサエグサです」
「シーサーにサエグサ?」驚いて、アストナージ。「あいつらブリッジで当直中じゃないのか?」
「はい。ですから、ほんの一口ということで……」トーレスは答えて、「だけどどうしてブリッジの当直知ってるんですか?」
「ブリッジまで行ったからさ、お前を探しにな」
アストナージはカミーユにディスクを渡した。受け取ってカミーユはあっと息を飲んで、顔をようやく赤らめながら頭を下げた。
|
|